スペインサッカー、美学と不条理BACK NUMBER
実力者、生え抜きを次々と放出――。
バレンシア、再建どころか崩壊危機。
text by
工藤拓Taku Kudo
photograph byGetty Images
posted2016/09/02 11:00
昨季、一昨季とリーガで2ケタ得点をマークしたパコの離脱はクラブにとって大きすぎるダメージとなる。
主力選手がクラブへの愛着を続々と失う状況に。
欧州カップ戦出場を逃したことで年間予算を縮小する必要があるとはいえ、ここまで極端な選手の大量放出はあまりに不自然である。
しかもこのような状況に嫌気がさしたのか、チーム内ではバレンシアへの愛着を失う選手が目立つようになってきている。
フェグーリはクラブから受けた再三の契約延長オファーを断り移籍を断行。ダニ・パレホはセビージャ移籍を強行しようとしてクラブの怒りを買い、数日間練習から隔離された末に渋々残留した。ジエゴ・アウベスも給料アップを巡ってクラブと対立し、開幕戦からベンチ外の扱いが続いている。
生粋のバレンシアニスタ、パコから見放される始末。
極めつけがパコだ。
先述の3人はいずれも近年チームの主軸として重要な役割を果たしてきた選手ながら、少なくとも地元出身者や下部組織の出ではなかった。
だがパコはバレンシア近郊の町トレンテで生まれ育ち、子どもの頃からメスタージャでのプレーを夢見てパテルナ(バレンシアの練習場)でボールを追いかけてきた生粋のバレンシアニスタである。
そんな彼が地元クラブのエースとして活躍する道を捨て、カンプノウのベンチに居座りかねないキャリアを選んだ。その事実は、バレンシアが経済危機よりずっと深刻なアイデンティティ喪失の危機に直面していることを示す警告のように思えてならない。