サムライブルーの原材料BACK NUMBER
清武弘嗣が獲得した信頼の大きさ。
「外国人選手」にとって開幕戦とは。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byAFLO
posted2016/08/24 11:30
ブンデスリーガの下位クラブから、CL出場クラブへ。大幅なステップアップにもかかわらず、清武弘嗣の存在感は全く衰えていない。
中村俊輔が悔やんだ、開幕戦のフリーキック。
ふと、エスパニョール時代の中村俊輔のことを思い出した。
セルティックから移籍した2009~2010シーズン、彼は開幕戦のアウェー、アスレティック・ビルバオ戦に臨んだ。前半10分過ぎにゴール正面約20mの直接FKを得たが、決めることができなかった。彼は明らかに悔しそうな表情を見せていた。試合も0-1で敗れた。
のちに中村はこう語っている。
「ビルバオ戦のFKは、上に浮いた。あそこで決まっていたら、とは思うよ。そのあと俺はキッカーじゃなくなったから。
エスパニョールの練習では“俺が蹴る”とばかりに6人ぐらい集まってきた。ずっと海外で学んできたのは、みんなを納得させるだけの信頼を得なければならないということ」
たった一度のチャンスを活かし切れるかどうか。過程は評価されない。味方を納得させて信頼を得るには、あくまで結果を出せるかどうかになる。だからこそ中村は、最初の一発に懸けていたように思えた。
レッジーナ、セルティックで活躍しながらもエスパニョールでは結果を残せず、彼は志なかばでスペインを去ることになった。ビルバオ戦の一発が決まっていれば、また違った展開が彼を待ち受けていたのかもしれない。
新しいチーム、鬼門、圧迫感、激しい競争……。すべてをはねのけて清武弘嗣は、結果を残した。信頼をつかみ取った。運で勝ち取れるほど、甘くも柔くもない。
単なる1試合ではない。
誰よりも何よりも清武自身が、その実感を得ているのではないだろうか。