サムライブルーの原材料BACK NUMBER
清武弘嗣が獲得した信頼の大きさ。
「外国人選手」にとって開幕戦とは。
posted2016/08/24 11:30
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
AFLO
「開幕戦はシーズンの単なる1試合じゃない」と、よく耳にする。
プロ野球のレギュラーシーズンなら143試合、J1なら34試合。いいスタートを切れるかどうかで、シーズンの行方も違ってくると捉える人が少なくないということだ。開幕戦の重要性をより強調する言葉である。
チームのみならず、個人にとってもそれは同じこと。
単なる1試合ではないと特に感じてしまうのが、海外サッカーに身を置く日本人選手たちである。それも新しいチームに移籍した人にとっては、チームにとってシーズンを占う開幕戦で活躍できるかどうかで、自分の立場が大きく変わってくることを海外挑戦の歴史が教えてくれている。
日本人初のセリエAプレーヤーとなったジェノアの三浦知良は開幕戦のACミラン戦でフランコ・バレージと接触して鼻骨を折り、1カ月間の長期離脱に追い込まれてしまった。結局21試合1ゴールに終わり、1シーズン限りでイタリアを去らなければならなかった。カズが「悪夢の開幕戦」なら、ヒデは「最高の開幕戦」だった。海を越えてペルージャに移籍した中田英寿はユベントスを相手に2ゴールをあげ、その後揺るぎない地位を築いていくことになる。極論をいえば、スタートの1試合が命運を分けた。
清武弘嗣が飛び込んだ、“鬼門”スペイン。
イタリアで実績がなかった日本人プレーヤーに対して、評価はシビアだった。欧州でプレーする選手が増えて次第に見方も変わってきたとはいえ、“鬼門”のスペインでは、今もその厳しさはそのままだと言っていい。EL3連覇の強豪セビージャに移籍した清武弘嗣は、そんなイバラの道に飛び込んだのだった。
単純に「38分の1」ではない開幕のホーム、エスパニョール戦。清武は素晴らしいスタートを切ることになる。
前半にはコーナーキックからビエットのゴールをアシストし、後半29分にはペナルティエリア右に走り込んでフランコ・バスケスのラストパスを呼び、右足でトドメを刺すゴールを奪ったのだ。6-4という派手な打ち合いに決着をつけた意義ある一発。この試合をWOWOWで解説した安永聡太郎氏(20日にJ3のSC相模原監督に就任)は「凄い」と思わず感嘆の声を挙げていた。