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北海はなぜガッツポーズしないのか。
甲子園では珍しいスタイルの「理由」。 

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氏原英明

氏原英明Hideaki Ujihara

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photograph byHideki Sugiyama

posted2016/08/19 17:00

北海はなぜガッツポーズしないのか。甲子園では珍しいスタイルの「理由」。<Number Web> photograph by Hideki Sugiyama

北海の選手たちの表情には、慢心も悲壮感もない。その瞬間に集中してプレーすることが、彼らの強さの秘密なのだろうか。

ガッツポーズや雄たけびをしない北海の選手たち。

 初登場となった2回戦の松山聖陵(愛媛)戦は18残塁の拙攻、3回戦の日南学園(宮崎)戦では併殺打3回。1イニング2安打しながら得点できないことが4度あった。この日の聖光学院戦では、また残塁が2桁の12個、守備でも、先制点につながる失策を犯している。

 それでも、彼らは崩れない。その要因としては、常に精神状態が一定に保たれていることがある。「プラス思考」とは少し異なるメンタリティーだ。

 例えば、ピンチを抑えたときのマウンド上のエース・大西や、2試合連続本塁打の川村の振る舞いが象徴だった。

 高校野球では頻繁にみられる、気合のこもったガッツポーズや相手を威圧するような雄たけびを、彼らはしない。

 川村がその理由を説明する。

「相手に点を獲られたから、こっちが得点を獲ったからと浮き沈みしないで、試合をやっていくことが大事だと思います。ホームランにしても試合の中の1つのプレーなので、まだ試合に勝ったわけではありません。(ガッツポーズをしないことが)冷静なプレーにつながっていると思います。チーム内で我慢して戦っているという意識は強いです」

1つのプレーではなく、ゲームに勝って喜ぶ。

 1つのプレーに対して一喜一憂しないから、気持ちにムラがなくプレーできる。打って喜んでしまえばそれは油断につながり、打てなくて落胆することが次のプレーの精度を下げることを彼らは知っているのだ。

 1試合に18残塁や3併殺もしてしまえば、いわゆる「負け試合」の空気が充満してもおかしくはない。しかし感情の起伏を作らないことで、彼らのプレーの精度は最後まで落ちない。

「やばいって心配にならなければ、気持ちがマイナスになることがない。だから、チャンスで打てなくても、次行こうって思える」

 4回表に同点適時打を放った菅野のこの言葉にも、北海のメンタルコントロール観が透けて見える。チームを率いる平川敦監督は、次のように説明してくれた。

「野球は1回から9回まであるので、一喜一憂することなく、最終的にゲームで勝って喜び、嬉しさを感じなさいと言っています。1つのプレーで一喜一憂してしまうと、それが油断、勘違いにつながってミスをして、3、4点という失点となってしまう。そこを、4点を3点、3点を2点という風に抑えられれば、中盤から終盤に2、3回チャンスが来ると思うので、その時に畳みかけるようにと考えています。落胆して『あの時の1点を防いでおけば』とならないように心がけていますね」

【次ページ】 対戦相手の監督が感じた北海の手強さ。

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大西健斗
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