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鶴岡東・工藤大輔の「4つのグラブ」。
両投げ両打ちは、甲子園で“卒業”。
text by
中村計Kei Nakamura
photograph byHochi Shimbun
posted2016/08/08 17:30
県大会での工藤大輔の背番号は19。鶴岡東高にとっては、実は昨年もヒーローになった選手の番号だった。
両投げ用、左右投手用、外野用の4つのグラブ。
右はきれいなオーバーハンドだが、左はややスリークォーターから投げる。
左投手に転向したばかりの頃は、球速は120キロ程度で、抜け球も多かった。しかし、1年間で130キロを超えるようになり、変化球も、右のときと同じようにカーブ、スライダー、チェンジアップを繰ることができるようになった。2年秋は3番手投手としてベンチ入りしている。
その頃には右ひじの痛みも癒え、入学時125キロぐらいだった右の球速は140キロに到達していた。
「1年間、左投げをやったことで、バランスよく体を使えるようになったんだと思います」
練習試合では、1人ずつ左右にスイッチしたことはないものの、1回ずつなら変えたことがあるという。
「ルール上、1人の打者に投げ切れば、変えてもいいみたいです。でも、そのとき投球練習はできないと聞きました。イニングで変えるときは、投球練習はしてもいいそうです」
ただ、3年春からは、打撃を生かすために外野手に転向する。ちなみに外野のときは、右利きのグラブをはめる。
「右の方がコントロールがいいんです。ピッチャーをやると、まだヒジに痛みが出るんですけど、外野ぐらいなら大丈夫です」
甲子園では、密かに4つのグラブをカバンに収めていた。両投げ用、左右の投手用、右の外野手用だ。
「父親はもともと左投げをすすめてくれていたので、喜んでグラブを買ってくれました。両投げ用は、キャッチボールのときに使います。いちいちグラブを変えるのが面倒なので。ネットで4万ぐらいで買いました」
「両両」は高校で卒業する。
初戦で対戦したいなべ総合は先発メンバー9人中7人が左打者だったため、監督に「投げさせるかも」と告げられていたが、結局、登板はなかった。
「父親には、甲子園で左右で投げたら記録に残るぞって、言われてたんですけど、チームの勝利が最優先なので、仕方ないです」
試合は3-5で逆転負けを喫し、おそらく甲子園初となる「スイッチピッチャー」の登板は幻に終わった。
大学では「右左」の外野手に専念するつもりだと話す。もったいない気もするが、「両両」は高校で卒業する。