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鶴岡東・工藤大輔の「4つのグラブ」。
両投げ両打ちは、甲子園で“卒業”。
posted2016/08/08 17:30
text by
中村計Kei Nakamura
photograph by
Hochi Shimbun
初めて見る表記だった。
「両両」――。
毎年、朝日新聞出版から出される、代表49校のデータブック『甲子園』の中の、鶴岡東(山形)の「1番・センター」工藤大輔の「投打」の欄には、そう書かれていた。
両投げ、両打ちという意味である。
同欄は例えば、右投げ左打ちの場合は、「右左」と表記される。高校球界でも、「右両」や「左両」のスイッチヒッターは何度か見た記憶があるが、投げても、打っても、スイッチできる選手というのは見たことがない。
工藤は、もともとは右投げ右打ちのピッチャーだったという。中学1年の秋に右打席で左ヒジに死球を食らい、「怖くなった」と左打者に転向。すぐに左打ちの感覚を身に着け、まずは「右両」になった。現在は、「スイングがきれい」(佐藤俊監督)という理由で、左投手のときも左打席に立つ。
監督「彼は、めちゃめちゃ器用なんですよ」
左投げにトライしたのは高校入学後、1年生の10月に右ひじのじん帯を痛めたのがきっかけだった。投げる動作は、打つこと以上に細かな神経が要求される。そう簡単に変えられるものではない。にもかかわらず、すぐに切り替えられたのには、こんな背景がある。
「小6のときの誕生日に父親に左利きのグラブをプレゼントされたんです。最初、間違えたのかなと思ったんですけど、『有利だから、左投げもやってみないか』と。なかなかそのグラブを使う機会はなかったんですけど、中3の秋ぐらいからキャッチボールぐらいはやってました」
高校1年秋、左利きに変えたばかりのときに、いきなり試合で登板を命じられた。佐藤俊監督は言う。
「彼は、めちゃめちゃ器用なんですよ。そのときから、見ていてもぜんぜん違和感がなかった。普通、あんなにすぐに投げられるようになりませんよ」
工藤は右でも左でも箸を使えるし、字も書ける。普通利き手しかできない作業を、ほとんど左右でこなせるという。
「どっちかの手が(荷物などを持っていて)ふさがっていたら、空いてる方の手で、だいたい何でもできます」