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コース上で「どうしてもキレちゃう」。
岩田寛の“精神修養”は今も進行中。 

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桂川洋一

桂川洋一Yoichi Katsuragawa

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photograph byGetty Images

posted2016/05/22 10:30

コース上で「どうしてもキレちゃう」。岩田寛の“精神修養”は今も進行中。<Number Web> photograph by Getty Images

ゴルフはメンタルスポーツというが、岩田はそれを痛感していることだろう。「キレない」方法はどこにあるのか。

よく見ると、2年前が好調なわけではなかった!

「2年くらい」前。2014年は岩田が日本で悲願のツアー初優勝を飾ったシーズンである。しかし、羅列された過去の成績を一緒に追っていくと、これが実に不思議なのだ。

 初タイトルを手にした9月フジサンケイクラシック。調子はいまひとつで「たまたまだった。ただのラッキー」。

 その2カ月後、中国で行われたWGC HSBCチャンピオンズで、海外のトップ選手と互角に争い、堂々の3位に入った。この輝かしい成績が米国への道を拓くのだが「あの時は“適当”がテーマだった」という。

 同大会の開催コースには、終盤16番に短いパー4がある。ドライバーでなくとも1オンが狙える距離だが、グリーン手前の崖に打ち込むリスクが高い。多くの選手がティショットをフェアウェイに刻み、2打目で勝負をかける。優勝争いをしている選手ならなおのことだ。しかし岩田は連日、ティから3Wで猛然とグリーンを狙った。必ずしもアグレッシブと賞賛されるべきものではなく“適当さ”が功を奏した。

 2勝目を飾った昨年7月のセガサミーカップなど、最たるものだ。調子は最悪。試合中「バックスイングって、どうやって上げるんだっけな」とキャディに聞く場面すらあった。予選ラウンドでは後半のパー3で、1打目を大ダフリした。「ステイ!」と叫んだが、それはグリーンの手前の池……の手前のラフに「止まってくれ!」という意味だった。

「分かった。良いときがない! でも……」

 いま思えば、ペブルビーチでの激闘の直前だってそうだった。当週の練習日に首から肩にかけて強い痛みを感じ、棄権することだって考えたのだから。

「2年くらい」を改めて振り返り、岩田は顔を上げて言った。「……分かった。良いときがない! 良くないんですよ、僕は。でも……」

 でも?

「気持ちは今とマジで全然違うな。(当時は)精神的に安定してましたね。ミスを引きずらなかったもん。一打、打って、今みたいにガッカリしなかった。それがいまはもう、引きずる、引きずる。セガサミーカップのときなんかは、『どうせここは、いつも成績が悪い』って割り切っていた。だから怒りもしなかったんじゃないかな」

【次ページ】 力はあるからこそ「キレちゃダメ」。

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