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野球におけるアナウンサーの重要性。
MLBには監督とトレードされた人も! 

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ナガオ勝司

ナガオ勝司Katsushi Nagao

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posted2016/04/28 10:40

野球におけるアナウンサーの重要性。MLBには監督とトレードされた人も!<Number Web> photograph by AFLO

野球がラジオと相性のいい競技だと言われる中には、アナウンサーたちの個性と魅力が大きく寄与していた。

監督とトレードされたアナウンサーも存在する!

 スカリー氏のほかにも、同氏の師であるレッド・バーバー氏や、独特の語り口調で有名だったというヤンキースのメル・アレン氏、「監督とのトレード」という異例の方法で球団間をブロードキャスターとして移籍したというタイガースのアーニー・ハーウェル氏や、映画『メジャーリーグ』のブロードキャスター役で有名になったブルワーズのボブ・ユッカー氏、そして、セブンス・イニング・ストレッチの際に放送席からマイクを振りかざして「Take me out to the Ball Game」を観客に歌わせたカブスのハリー・ケリー氏などが全米クラスの“名物ブロードキャスター”として知られている。

 そのリストの中に、前出のグラニー氏は含まれていない。

 グラニー氏は殿堂入りこそしているものの、スカリー氏やユッカー氏のような全米で知られる存在ではなく、クリーブランドのファンの間でのみ知られる“地方の名物ブロードキャスター”だ。よほどの野球マニアでなければ知ることはない名前だし、関係者向けの食堂の壁に件の名言を残していなければ、私のような外国のメディアに知られることも永遠になかっただろう。

地元チームの全試合を中継する地方局の存在。

 アメリカにはグラニー氏のような“地方の名物ブロードキャスター”が何人も存在する。もっと正確に言えば、メジャーリーグ全30球団に、それに似た存在の人がいると言ってもいい。なぜなら一部の例外を除いて、メジャーリーグの本拠地がある都市には必ず、ロードを含む全162試合を中継するテレビとラジオの地方局があるからだ。

 そういった局のブロードキャスターは、普段からチームと共に行動し、オフになればチームが行う選手主導の慈善事業にも進んで参加して“チームの顔”となる。そのリストの中にはジャイアンツのジョン・ミラー氏や、昨年までレッドソックス、今季からパドレスの実況を担当しているドン・オーシージョ氏など、地元の野球ファンにとってはとても馴染み深い顔触れが揃っており、彼らはスカリー氏やユッカー氏に比類する存在として地元の名士になっている。

 メジャーリーグの実況中継とはつまり、ひとつの野球文化である。

 子どもの頃から、ドジャースと言えばスカリー氏、ブルワーズと言えばユッカー氏という風に、メジャーリーグの実況中継を聞きながら大人になった人々が、知らず知らずの内に地元のチームを愛してしまうのだ。オフの野球教室やファン感謝祭なんて目じゃない。実況中継はどんなイベントも敵わないほど、野球界の発展に貢献しているのである。

【次ページ】 日本に“地方の名物アナウンサー”は生まれるか。

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#柳沢慎吾

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