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パッキャオの戦いは常に痛快だった。
遂に引退した「英雄」の壮絶な歴史。
text by
渋谷淳Jun Shibuya
photograph byAFLO
posted2016/04/12 07:00
史上2人目の6階級制覇よりも、そのファイトスタイルこそがファンの心を掴んだ。パッキャオこそはまさに“記憶に残る”ボクサーだった。
大胆に階級を上げ、史上2人目の6階級制覇。
彼らとの壮絶なバトルにケリをつけたパッキャオは、ここから大胆に階級を上げていく。キャリア中盤のクライマックスは、'08年のデラホーヤ戦だ。フェザー級あたりが適正階級と思われたパッキャオと、ミドル級でもタイトルを獲得した6階級制覇王者のデラホーヤ。ボクシングが階級制スポーツである以上「無謀なマッチメーク」という批判の声が上がったのは当然のことだった。
ところがあろうことか、ウェルター級で行われた試合で、パッキャオはデラホーヤを一方的に叩きのめしてしまう。パッキャオがボクシング界の常識を覆し、真のスーパースターになった瞬間だった。
この後も快進撃は続き、英国の人気世界王者リッキー・ハットン、プエルトリコの英雄ミゲール・コット、メキシコのタフネス、アントニオ・マルガリートらを次々に撃破。マルガリート戦ではWBC世界スーパー・ウェルター級王座を獲得し、史上2人目となる6階級制覇を達成した。振り返れば、このあたりまでがパッキャオの全盛期だったと言えるだろう。
'15年5月に行われた“世紀の対決”フロイド・メイウェザーとの一戦は、その内容はさておき、総額480億円を売り上げたとも言われ、史上最もリッチな試合としてスポーツ史に記録された。
いつも単純明快にして痛快だったパッキャオの試合。
パッキャオの魅力は、何と言ってもその攻撃的なボクシングにあった。代名詞とも言える鋭い踏み込みは、リングの中央からロープ際まで一瞬にして到達するかのようだった。躊躇なく豪快な左を振り抜き、タフな実力者たちを面白いようにキャンバスに転がした。
同時代に君臨したメイウェザーやヘビー級のクリチコ兄弟の試合が必ずいくばくかのストレスを残すのに比べ、パッキャオの試合はいつも単純明快にして痛快だった。胸のすくようなファイトが世界中のファンを魅了した。