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原口“ありあまる元気”の使い方は?
シリア戦「薄氷の5-0勝利」の意味。
posted2016/03/30 11:30
text by
松本宣昭Yoshiaki Matsumoto
photograph by
Shigeki Yamamoto
よく言えば、大胆、斬新、破天荒。
悪く言えば、無謀、蛮勇、非常識。
3月29日のシリア戦、58分以降に見せた日本代表の戦い方のことである。2トップとサイドハーフを前線に残して点を取りにきたシリアに対して、日本が選択したのは“殴り合い”だった。売られた喧嘩は買うぜと言わんばかりに前がかりとなり、全体のラインが間延びした。中盤はスペースだらけで、両チームによるカウンターの応酬が続いた。
それまでコンパクトな陣形を保ってきた日本が、なぜ突然“破天荒ジャパン”に変貌したのか。きっかけは、58分に空中戦で相手に激突された山口蛍が負傷交代(鼻骨と左眼窩底を骨折)し、原口元気が投入されたことだった。彼が入ったポジションは、本職の2列目ではなく、山口と同じ中盤の底だった。
「普通のボランチ」が欲しければ原口は使わない。
ボランチは一日にして成らず。原口がこのポジションで練習したのは、シリア戦前の数日のみだ。攻撃を組み立てつつ、失点のリスクを取り除くセンスが求められるボランチの仕事をこなすための経験が足りていないことは、原口自身が誰よりもわかっている。だから、彼が選択したのはいつもどおりプレーすることだった。
「ボランチで攻守のバランスを取れと言われても、どうやればいいかわからない。ボランチとしての無難なプレーを求めるのならば、僕があそこで使われる意味はないと思う。だから球際で闘うことと、前に出ていくことを意識した。後ろからどんどんスプリントして前線に入っていけるのは自分の強みだし、今までのボランチにはないプレーをやろうと。今日は走りっぱなしで、ずっと心拍数が180ぐらいで苦しかったけど(笑)、走り続けたことで最後に点が取れた」
本人の言葉どおり、中盤の底からでも果敢にドリブル突破を試み、クロスに対しては迷いなくゴール前に飛び込んだ。81分には左サイドからカットインして自らシュートを放ち、試合終了間際には自陣から激走して長友佑都のクロスに頭で合わせてチーム5点目も決めた。結果だけを見れば、原口がピッチに入ってから4得点。ボランチの常識をぶち壊す彼のプレーが、5-0というスコアを生み出したとも言える。