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岡崎慎司、何度目かの「得点宣言」。
便利屋とエゴイストを往復する理由。
text by
寺野典子Noriko Terano
photograph byAFLO
posted2016/03/05 10:40
得点の機会に顔を出す能力はやはり特筆すべきものがある。バーディーの速攻ではない、岡崎の攻撃の形を作りたい。
地味な仕事と得点への固執を往復してきた。
2011年にドイツ・シュツットガルトへ渡り、始まった欧州でのストライカー人生。点取り屋ストライカーの陰に隠れ、地味な仕事を誠心誠意努めたものの先発落ち。監督は汚れ仕事も厭わない岡崎を重宝に使ったが、結局は本来やるべき仕事、ゴールを決められないと“用済み”となってしまうのだ。
それを強く思い知らされた岡崎は、2013年のコンフェデレーションズカップで「エゴイストになる」と宣言し、マインツへの移籍を果たした。そのマインツでは2シーズン続けて二桁ゴール。しかし、意気揚々と挑んだW杯ブラジル大会で敗退。
「人生で一番調子が良い時期だったにもかかわらず、何もできなかった」と現実を思いしらされた。そして「今までの自分を一度ぶっ壊して、新たに作り直したい」という想いを秘めてプレミアリーグへ移籍した。ドイツ国内での移籍話もあったが、違う世界で闘わなければ成長できないと感じ、海を渡る。
プレミアリーグに挑戦した日本人選手は過去にもいるが、コンスタントに活躍した選手はいない。香川真司でさえドイツへ戻ってきている。
「自分が実際に立ってみなければわからない」という風に考え、様々な事態に備えてあらゆる想定をしていたと話す岡崎。
ゴールを決めると試合に出られる、というシンプルさ。
運動量や守備力という自身の武器を“名刺”代わりにして、チームに溶け込むことから始めた。それでも開幕戦直前の練習試合でゴールを決めるまでは、先発は無理だと考えていた。結果が即、開幕スタメンへと繋がったのだ。
しかし7試合ノーゴールで終わると、10月下旬から4試合ベンチスタート。それでも11月下旬の試合で得点を決めると、次の試合でスターティングイレブンに選ばれる。けれど、ゴールを決められず、またベンチへ。自分の立ち位置の不安定さを実感する。
「こっちはお金があるから、ベンチ要員ですら補強対象になる」と話すこともあった。ベンチが底ではないということ。競争相手はチームメイトに限らない。
初めて家族と離れて過ごした年末年始。クリスマスも新年もひとり。試合は続くし、練習もある。それでも岡崎のことだから、英国での日々を振り返り、思考を巡らせたはずだ。守備への貢献や運動量だけでは、本当の評価は得られない。違いを見せるために必要なのはやはりゴールしかなかった。
「ゴールを決めなければダメだ。そのために何をすべきか?」
その答えのひとつが岡崎に変化を与えたのだろう。