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「いい記録で泳げるんじゃないか」
33歳になった北島康介が期待する事。
posted2016/03/07 10:30
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
AFLO
「桜のように散りましたね。来年……咲かせたい気持ちはあるけど」
昨年の日本選手権でそう口にしてから、もう少しで1年近くが経とうとしている。
「水泳人生のラストチャンスと思って、死にものぐるいで練習したいですね」
強い言葉を、真剣な眼差しで口にした。しかし、そこに、悲壮感はなかった。
むしろ北島康介が醸し出していたのは、別の空気だった。
2月20・21日、東京の辰巳で競泳のコナミオープンが行なわれた。4月にリオデジャネイロ五輪代表選考会である日本選手権を控え、昨年の世界選手権で金メダルを獲得した瀬戸大也、渡部香生子、星奈津美らも出場。有力選手の現在、あるいは伸び盛りの中学生世代に関心が集まっていた。
その大会に、北島康介もいた。
昨年4月の日本選手権は100m平泳ぎのみエントリーしたが、3位。休養していた2009年を除き、2003年から出場し続けていた世界選手権代表を逃した。進退を問われ、明言を避けたが、「引退を示唆」と書く記事もあった。
それから間を置いて、現役続行を表明する。大きな挑戦と言えた。
五輪で7つのメダル、満足してもおかしくはない。
その時点で32歳。昨年9月に33歳となった。多くの競技で、トレーニングや食生活などの進化により現役でいられる期間、第一線で活躍できる時期は長くなっている。
だが、歳をとるにつれ故障しやすくなり、日々の練習の疲れもとれにくくなるのも事実だ。変わりつつある体を受け止め、黙々と風景の変わらないプールで泳ぎ続ける毎日もまた、しんどくなってくる。
それらをはねのけ、妥協なく長期間の練習に取り組むには、自分自身の心と向き合う覚悟が必要となる。ましてやアテネ、北京五輪では100m、200m両種目金メダルを達成し、ロンドン五輪でも競泳最終日のメドレーリレーで銀メダルを手にしている。満足感があっても不思議はない。では、何が北島の支えとなっているのか。