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32年ぶり五輪出場の裏に異端の戦術。
水球日本代表が捨てた「常識と安定」。
posted2015/12/30 12:00
text by
田坂友暁Tomoaki Tasaka
photograph by
Kyodo News
1984年ロサンゼルス五輪に出場して以来、五輪の舞台から遠ざかっていた。あれから32年の時を経て、ようやく日本の水球界が大きな一歩を踏み出す日が訪れた。
12月16~20日に中国・佛山で行われた水球アジア選手権。この大会は、リオデジャネイロ五輪の大陸予選を兼ねており、日本、中国、カザフスタン、サウジアラビア、イランの5カ国総当たりのリーグ戦で、1位になることが五輪出場権獲得の条件であった。
目下のライバルは、長くアジアの王者として君臨していたカザフスタンと、幾度となく互角の争いを繰り返してきた中国。
大会2日目、カザフスタンと対戦した日本は、第1ピリオドから試合を優位に進め、王者カザフスタンを1点差で破る。勢いそのままに、最終日の中国戦は日本の猛攻で6点差をつける勝利で、見事にアジア王者の座を奪い、32年ぶりとなる五輪出場権を獲得する。
その大きな原動力となった要因は、大本洋嗣ヘッドコーチの秘密兵器とも言える大胆な作戦だった。
セオリーを無視した『超攻撃型ディフェンス』構想。
2012年1月、自国開催で行われたロンドン五輪の出場権を懸けた水球アジア選手権。その前年の上海世界水泳選手権で過去最高順位となる11位を獲得していながら、カザフスタンと中国に敗北を喫し、掴んだと思われていた五輪出場権がその手からこぼれ落ちた。
その後、日本代表を指揮するようになった大本ヘッドコーチは、ある大きな賭けとも言える大胆な作戦を提案する。それが、『超攻撃型ディフェンス』だった。
「日本は、セットプレーでの得点力アップが課題だ、とずっと言われてきました。でも欧米のチーム相手のセットプレーでは、自分たちよりも手足が長くて体格の大きい選手たちが、がっちりとゴールを守っています。体格で劣る日本人が、そんな状態を切り崩してゴールを決めるのはまさに至難の業。逆もそうです。小さな日本人がいくらゴール前を固めても、体格の大きい欧米人たちは私たちのディフェンスなんか意に介さず、バンバン上からシュートを打ってくるので、抑えきれないんです」