マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
森友哉vs.岡田雅利の配球一本勝負。
西武の紅白戦で見た捕手サバイバル。
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2016/02/29 10:40
岡田雅利(一番右)と森友哉(右から2番目)。和気藹々とした雰囲気の下には真剣勝負の刃が煌いている。
「目には目を」の内角勝負が頭をよぎったはず。
おそらく、内心、はらわたに煮えくり返っているはずの捕手・岡田。それは、森友哉が誰よりもわかっている。
目には目を、の内角勝負。ひょっとしたら、頭のあたり来るんちゃうか。
それぐらいの予防線は張っていたはずだ。
しかし、捕手・岡田は外にミットを構える。外にストレート、外にスライダー、また外にストレート。
外に3つ続けられ、“想定外”の攻められ方をした森友哉の頭はきっと混乱している。さあ、ここからどうするんだ?
行った! 捕手・岡田が打者・森友哉の“裏”に構えた。
一転、グリップのあたりにストレートだ。思わず反応してしまったバットが止まらない。かろうじてバットをボールにぶつけたものの、打球は力なく投手の前に転がった。
右手のこぶしを一度叩きつけてから体を丸めて一塁へ走る森友哉。
そんなかわいい後輩に背中を向けながら、マスクを外した捕手・岡田の会心の笑顔がニヤッと意地わるく輝いたのを、私は見逃さなかった。
ペナントを闘えるのは、仲間を倒した者だけなのだ。
昨季リーグベストナイン、そしてゴールデングラブ賞の正捕手・炭谷銀仁朗が君臨するポジションだが、ケガに無類の強さを発揮する彼とて、早いもので来季は30になる。
“後継”の座は用意されているように見えて、決してそうではないのがプロだ。
アマチュア時代の実績、ネームバリュー、そんなものより「今、どっちなのか」。それで働き場所の有無が決まる。
ペナントレースが始まればチームメイトとして共に勝利のために闘う者たちには、その前に、チームメイトたちと闘い、真の「プロ野球人」としての権利を勝ち取るための春季キャンプというオーディションの場がある。
ペナントを闘うことができるのは、仲間たちといえども、容赦なく倒し、つぶし、ひきずり下ろした者たちだけなのだ。