マスクの窓から野球を見ればBACK NUMBER
森友哉vs.岡田雅利の配球一本勝負。
西武の紅白戦で見た捕手サバイバル。
posted2016/02/29 10:40
text by
安倍昌彦Masahiko Abe
photograph by
NIKKAN SPORTS
春のキャンプの午前中はなごやかである。
「早出特打ち組」が、朝の8時台からバッティングゲージを占領して打ち込みを行なっている。そこに、9時半をまわったあたりで“本隊”のバスが到着し、外野の芝生でアップが始まるのが10時前後。
軽いジョギングから入念なストレッチ。
これからこの筋肉を使ってあげるよ、目を覚ましてくれよ~。
全身の筋肉にそう語りかけるように、時間をかけてゆっくりと関節と筋肉を伸ばしていく。
吹き抜ける風は冷たくても、降りそそぐ日差しはもうすっかり春。選手たちの陽気な声が飛び交う。“記者だまり”の内野ファールグラウンドにその内容までは届かないが、いちいち陽気な反応が起こっているところをみると、いわゆる冗談、今の言い方でいえば“いじり”なのだろう。
念の入ったストレッチが終わって、今度はダッシュを繰り返す。
30mほどだったり、10m前後だったり。体の初動の勢いを作るため、体の景気づけといってもよいだろう。
景気づけだから、選手の間に飛び交う言葉も一段と活発だ。
「いいフットワークだ、30番!」
「あかん! 休みの後はきっついわ!」
若者たちの笑顔が弾ける。
「チャンスやぞ、44番!」
「おっしゃー!!」
打撃練習はどこまでも自分のための時間。
バッティング練習が始まると、グラウンドには静寂が訪れる。スピーカーから軽快な音楽が流れるだけで、グラウンドに選手たちの声はほとんど聞こえない。
誰もが自分の練習に集中する。自分のスイングに、自分の打球音に、自分の飛距離に。その視線が打っているチームメイトに向くことはあっても、意識が他者に泳ぐことはない。
自分の、自分による、自分のための時間。バッティング練習とは、バットとボールを用いた“トレーニング”の時間なのだ。
カッコーン! カッコーン!
乾いたインパクト音が規則正しく聞こえて、ある意味、とてもおだやかな時間が流れていく。