サムライブルーの原材料BACK NUMBER
歴史書を試合直前にロッカーで読む!?
ハリルホジッチの異様な習慣の理由。
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph byTakuya Sugiyama
posted2016/01/18 10:40
W杯アジア2次予選は5勝1分けでE組首位に立つ。残る3月の2試合はいずれもホーム開催。快勝して最終予選に弾みをつけたい。
厳格だったルールを、実は徐々に解除している。
練習場で選手たちに見せるのは、多弁な指揮官の姿である。トレーニングを始める前に選手たちを集めて、やるべきこと、成すべきことを野太い声で繰り返し伝えている。ピッチの内外でコミュニケーションをよく取ろうとする監督だけに、てっきり試合前のロッカールームでも「静」より「動」の勝手なイメージがあった。試合前に読書する指揮官には、「もう一つの顔」を窺い知ることができる。
ハリルホジッチは規律を重んじ、チームに厳格さを求めてきた。
コンディション管理を徹底するため、合宿中は部屋同士の往来まで禁止にしたほど。食事の時間も決まっていて、息が詰まるような合宿生活を送らせている。昨年末には国内組の選手たちを座学のためだけに集め、体脂肪率12%未満を厳命している。
欧州やアルジェリアでやってきたノウハウを、日本でも踏襲しようとしているのは分かる。だが一方で、彼が「頑な人」ではないということも付け加えておきたい。
実は合宿生活のルールも、以前とは違ってきた。たとえば夕食の始まりも、今では「少々遅れても可」になった。練習後に各々、ケアに十分な時間を充てたりする者もいるからだろう。
「日本人選手は真面目にやってくれる。そこは選手たちを信頼したい」とスタッフには語っているようである。
西川周作「監督と選手の距離が近づいている」
日本の文化や日本人選手の気質を感じながら、柔軟に対応しようとしているのだ。キーパーの西川周作も「監督と選手の距離が、凄く近づいている感じがする」と語っていた。決して高圧的、挑発的ではなく、厳しい要求はしつつも、日本に合ったやり方を模索しているのは間違いない。
ただ、昨年3月に就任以降、ハリルホジッチの株が上がっているとは思えない。6月のロシアW杯アジア地区2次予選のホーム、シンガポール戦でよもやのスコアレスドローに終わり、東アジアカップでは1勝もできなかった。ボールを奪って速く攻めるスタイルそのものが、今ひとつはまっていない現実もある。指揮官自身、考えさせられたことも多かったはずだ。ラグビーW杯で南アフリカを撃破したエディー・ジャパンのマネジメントに注目するなど、他競技にも視野を広げている。