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歴史書を試合直前にロッカーで読む!?
ハリルホジッチの異様な習慣の理由。
posted2016/01/18 10:40
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
Takuya Sugiyama
ヴァイッド・ハリルホジッチはいつも本を一冊、バッグに忍ばせている。
読書好きの監督は多いゆえ、それ自体は不思議ではない。イビチャ・オシムや岡田武史も、代表活動中によく本を読んでいた印象がある。
南アフリカW杯でチームをベスト16に導いた岡田は、司馬遼太郎の歴史小説『坂の上の雲』など日本から10冊ほどを南アフリカに持ち込んだという。だが、思いのほか読み進めることはできなかった。彼はのちに言っていた。
「1ページ読むとすぐにサッカーのことが浮かんでしまってね……。目前に試合が控えているときに本を読もうとしてもやっぱり進まないものだね」
『坂の上の雲』は以前に読了していたものの、知人から全8巻の文庫本をプレゼントされたことで、再び読み直していた。6巻まで読んで日本を離れたが、大の読書家である岡田でさえもそれからの1カ月間で7巻を読み終えることはできなかったそうだ。試合が控えていた場合になかなか読み進められないというのは、岡田だけでなく大体の指導者が同じだと思う。
しかしハリルの場合は違う。試合直前に本を開いて、読み始めるのだ。
読書は自分のためであり、メッセージでもある。
その理由について聞いたことがある。
「選手が(試合前の)ウォーミングアップをしているとき、私は一人でロッカールームのなかにいて本を読んでいる。読書に集中することで、試合に集中する、そして自分を落ち着かせるという目的がある。自分に用意された部屋はあるが、ロッカーで選手がいても読むことにしている」
試合直前に選手の前で読書をするという監督を、筆者は知らない。
何故、試合直前に? それも選手の前で?
表情にクエスチョンマークを浮かべていると、ハリルは笑ってこう言った。
「何故かって? 自分のためでもある一方で選手たちに対するメッセージでもある。君たちも今、しっかりと集中して(心の)準備をしておくんだ、とね。これは以前から、やり続けていることでもある」
準備はすべてやってきた、あとは君たちが実践するだけ。そんな意味もこめられているのだろうか。