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アレジやハッキネンの提案は正当か?
F1における「無線」の意味を考える。
posted2016/01/17 10:30
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images
年明け早々、海外のメディアが相次いで元F1ドライバーによるF1改善策を伝えた。
そのひとりは'98年と'99年にワールドチャンピオンに輝いたフィンランド人のミカ・ハッキネンで、もうひとりは'90年代から'00年代にかけてフェラーリなどで活躍したフランス人のジャン・アレジである。
ハッキネンとアレジの主張は細かいところで相違点はあるものの、大局的にはほぼ一致した意見となっている。
それは、「現在のF1は複雑になりすぎているから、もう少しドライバー中心のシンプルな戦いにしたほうが良い」というものだ。そして、そのひとつのアイディアとして「無線やテレメトリーの使用をもっと制限したほうが良いのではないか」と主張している。
2人が現役ドライバーだった時代のF1にも無線はあった。しかし、マシンに搭載された技術は現在のような複雑な装置はなく、無線での交信もピットインのタイミングやマシンの状態についてがほとんどだった。
その後、F1は相次ぐ自動車メーカーの進出とともにハイテク化が加速。
マシンにはさまざまなセンサーが搭載され、テレメトリーによって送られてくるデータを元にエンジンやブレーキ、そしてディファレンシャルやクラッチなどの適正な設定をエンジニアたちが無線によってドライバーへ指示するようになる。
ドライバーはその指示を元にステアリングホイール上のボタンを操作しながらレースする時代へと移り変わっていった。
F1ドライバーにも感じ取れない領域がある。
「現在のF1ドライバーは、操り人形のようだ」という批判をしているのは、何もハッキネンやアレジだけでない。
そのため、FIAは2014年のシンガポールGPからドライバーとエンジニア間の一部の無線を禁止。2015年のベルギーGPからは、スタート時のエンジニアからドライバーへのアドバイスがいっさい禁止されることになった。2016年からはその制限がさらに厳しくなり、FIAが決定した31項目以外は禁止される。
それでも、無線が完全に禁止されるわけではない。往年の名ドライバーたちが「無線の使用をもっと制限したほうが良いのではないか」と主張するのは、そのためである。
無線による指示に頼らず、自分の腕で戦ってきたハッキネンやアレジが「もっとドライバー中心の戦いが見たい」と主張する気持ちが理解できないわけではない。
しかし、現在のF1マシンは複雑に電子制御化されており、卓越した能力を持つF1ドライバーでも感じ取れない領域が存在していることも確かだ。あるエンジニアは無線の禁止についてこう危惧する。