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アレジやハッキネンの提案は正当か?
F1における「無線」の意味を考える。 

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尾張正博

尾張正博Masahiro Owari

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photograph byGetty Images

posted2016/01/17 10:30

アレジやハッキネンの提案は正当か?F1における「無線」の意味を考える。<Number Web> photograph by Getty Images

2015年シーズンも各種のデバイスを使いこなし、盤石の強さを誇ったメルセデス。レギュレーション改訂がどんな影響を与えるだろうか。

エンジニアが抱くレギュレーションへの不信感。

「2014年に新しいパワーユニットが導入されてから、私たちはフリー走行でパワーユニットの設定が少しおかしいときは、ステアリング上のスイッチをドライバーに動かしてもらって設定を調整してもらっていた。でも、2016年に使用可能な31項目の中に、それが見当たらない。もし、本当に禁止なら、ドライバーをピットインさせて変更するしかないけど、そんなことをしても走行時間が減るだけでだれにもメリットがなく、さらに観戦に訪れているファンにも迷惑な話だと思う。レギュレーションを決めた人たちは、そういうことを理解しているのだろうか……」

 2015年のベルギーGPから禁止された「スタート時の無線禁止」についても、現場のエンジニアたちからはこんな不満が聞こえる。

「現在のスタートシステムはハッキリ言って良くない。FIAはドライバーの技量の差を出そうとしてスタート前に無線での指示を禁止しているけど、それが逆にドライバーの自由度を制限する皮肉な結果を招いている」

 禁止前までのF1でスタート時にエンジニアがドライバーに伝えていたのは、クラッチのバイトポジションと、タイヤを適正な温度に維持するためにリアタイヤを空転させるバーンアウトの回数だった。

 つまり、現在のF1マシンがかつてのようにスタートで差がつかなくなったのは、以前は大きな差があったF1マシンの水準が現在はかなり高いレベルで統一されているからで、F1ドライバーのレベルは昔も今も変わっていないということだ。

 そのエンジニアはさらにこう続ける。

「ところが、いまのF1はスタート時の無線禁止によって、コントロールエンジニアの経験で決まるようになった。ドライバーの技量に関係ないところでスタートの良し悪しが決まってしまい、ドライバーはかわいそうだと思う」

F1は最高のエンジニアリングの戦いでもある。

 もちろん、現場のエンジニアたちも、行きすぎたアドバイスは禁止したほうが良いと考えている。

「無線についても、ドライバーが速く走るのを助けるための、いわゆるドライバーエイド的なアドバイスは確かに行き過ぎた行為だった。例えば、特定のコーナーでのラインを教えたり、ブレーキバランスやパワーユニットのマップを変更させるという行為はやるべきではないし、すでに禁止されている。でも、無線やテレメトリーをすべて禁止したほうがいいというのは時代錯誤も甚だしい。F1はドライバー同士の戦いでもあると同時に最高のエンジニアリングを懸けた戦いでもある。せっかく発明された素晴らしいテクノロジーがあるのにそれを禁止するというのは、F1にとって自殺行為のようなもの」

 F1人気の低迷を食い止めようと試行錯誤を繰り返しているFIAの苦悩は理解している。しかし、無線やテレメトリーを禁止すれば、人気が回復するほど問題は単純ではない。

 なぜなら、無線もテレメトリーも'80年代から使われてきた技術。問題は技術そのものではなく、それを使う人間のほうにある。解決の糸口が見出せないからといって、何十年も進化させ続けてきたテクノロジーを安易に捨ててはいけない。

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ミカ・ハッキネン
ジャン・アレジ

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