F1ピットストップBACK NUMBER
「今のF1のつまらなさ」を象徴する、
メルセデスの行き過ぎた戦略を問う。
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph byGetty Images
posted2015/12/07 10:30
チャンピオンを決めてからの3レース、いずれもロズベルグに敗れ2位に甘んじたハミルトン。結果的に後半戦は失速したかのような印象だった。
全てが決まってしまったレースで、ファンが望むもの。
だが一般のファンは、スポーツに科学で証明された結果だけを求めているわけではない。むしろ、科学では説明のつかない奇跡を時に求めているのではないだろうか。そして、2015年の最終戦アブダビGPは、まさにそういうシチュエーションだった。
ドライバータイトルはハミルトンに決定し、コンストラクターズ選手権はすでにメルセデスAMGが制し、ドライバーズ選手権2位の座もロズベルグが確定していた。
なにもかもが決まってしまった一戦にもかかわらず、チケットを買ってサーキットに来たファンとテレビのスイッチを入れた世界中のファンのために、最後の一戦ぐらい、メルセデスAMGはドライバーを自由に戦わせても良かったのではないか。
ウォルフは「もしハミルトンが1ストップ作戦を敷いてあのまま走り続けても、最後にロズベルグに抜かれていた」と語ったが、ファンがみたいレースとはコンピュータではじき出された1位と2位というデジタルな結果ではなく、優勝を目指して戦った末に1位と2位の明暗が分かれるというアナログなドラマだ。
ハミルトンはパワーユニットを制限されていた。
現在のF1は、数百億円もの高額な開発費と人件費をかけて戦うビジネスである。しかし、もしアブダビGPでハミルトンが優勝を狙った結果、3位や4位になったとして、コンストラクターズ選手権を制しているメルセデスAMGに何の損失があったというのか。
レース終盤、メルセデスAMGはハミルトンに対してパワーユニットモードに関する指示も出している。
逆転をあきらめなかったハミルトンは、パワーユニットを酷使するモードでロズベルグの後を追ったが、チームはハミルトンに対してそのモードで走り続けることを禁じた。
理由は……ロズベルグのパワーユニットがハミルトンよりもさらに制限されたモードで走っていたからだ。ロズベルグのパワーユニットは今季イタリアGPでトラブルを起こしていたため、最終戦で使用したものはハミルトンのパワーユニットよりもずっと多くの距離を走ったものだったのだ。
ハミルトンは日曜日のレース後半、戦わずして敗者となったようなものだった。