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テロ直後の週末にF1界が見せたもの。
グロージャン、そして小松礼雄の思い。
posted2015/11/22 10:40
text by
尾張正博Masahiro Owari
photograph by
Getty Images
「予選は本当にひどかった。ロマン(・グロージャン)に聞いたわけではないからわからないけど、やっぱり金曜日の夜にああいうことが起きて、自分にプレッシャーをかけすぎていたんじゃないかと思う」
ロータスで昨年までグロージャンのレースエンジニアを担当し、今年からチーフエンジニアとしてチームのエンジニアたちを統括している小松礼雄は、そう言ってグロージャンが精神的に難しい状況でブラジルGPを戦っていたことを明かした。
金曜日の夜に起きたこととは、11月13日にフランスの首都パリで発生した同時多発テロのことである。
20人いるF1ドライバーで現在、ただ一人のフランス人ドライバーであるグロージャン。母国で起きた惨事は、遠く離れたブラジルにいた彼にも大きなショックを与えた。
じつは小松の後任として、今年からグロージャンのレースエンジニアとなったジュリアン・シモン・ショタンもフランス人だった。
ショタンは言う。
「むしろ、距離が離れれば離れるほど情報が少なく、事情が把握できない分、不安は大きかったかもしれない」
小松はそのことを4年前に身をもって体験していたこともあり、チーム内にいるフランス人たちの気持ちが痛いほど理解できた。
3月11日にバルセロナで聞いた大震災の報。
2011年3月11日に未曽有の大震災が東日本を襲ったとき、小松はスペインのバルセロナで開幕へ向けて、最後のテストを行なっていた。
日本とバルセロナの時差は8時間。朝8時すぎ、テストの準備をしていた小松に、震災のニュースを知らせたのが、ショタンだった。大規模な地震という知らせを聞いてインターネットを検索する小松の目に飛び込んできた映像は、信じられない光景だった。
「私の実家は東京だから、幸い大きな被害はなかったけれど、あの津波の映像を見たら……」
あの日、バルセロナで震災のニュースにショックを受けたのは、小松だけではない。テストをしていた多くのドライバーが、テスト後、こんなコメントを残していた。
「今日のテストでマシンの調子がどうだったかは、日本で起きた震災に比べれば大したことではない。いま私の心は被災した人たちと共にある」