サッカー日本代表PRESSBACK NUMBER
ザック、岡田、ジーコの誰とも違う部分。
シンガポール戦でハリルが見せた新味。
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph byTakuya Sugiyama
posted2015/11/13 11:20
金崎夢生は、5年ぶりの招集でいきなりスタメン出場という大抜擢にゴールで応えた。
新メンバーの加入は確かにチームを変貌させた。
管理された競争ではなく目に見えるサバイバルは、チームを活性化する。
ハリルホジッチ監督に初めて招集され、岡崎の定位置だった1トップでいきなり先発した金崎夢生の先制弾は、ベンチに座る背番号9はもちろん、同じピッチに立っている主力も刺激したに違いない。
1-0とリードした6分後の26分、本田圭佑が2点目を叩き出した。力づくでねじ込んだ。香川と岡崎がスタメンから外れているなかで、彼は7分、16分と2度の決定機を生かせていなかった。チームを勢いづけるためにも、自身の存在意義を示すためにも、3度目の好機を逃すわけにはいけなかったのだ。
対戦相手との力関係を考えれば、長谷部誠のパートナーが柏木陽介だったのも納得できる。ハリルホジッチ監督が言うところの“デュエル”に強い山口蛍や遠藤航ではなく、ゲームコントロールに長けた柏木のボランチ起用は、守備的な相手を崩す人選として適正だ。背番号7を着けた27歳は、時間帯を考えながらパスの方向を使い分け、攻撃のリズムに強弱をつけてもいた。球際の攻防にも及第点をつけられる。
左足からインスイングの軌道を描く右CKも任された。これまでキッカーを務めていた本田を、ゴール前へ配することができていた。柏木のスタメン起用に伴う、見落とせない変化である。
相手に応じて選手を使い分けるのが本当は理想?
香川に代わってトップ下で出場した清武弘嗣も、柏木と同じ役割を担った。試合当日が26歳の誕生日だったハノーファー所属のMFは、ゴールへの流れに絡むだけでなく、左CKのキッカーを任されている。この試合の日本がショートコーナーに頼らなかったのは、高精度のキッカーとターゲットになる選手が揃っていたからだろう。これまで生かし切れなかった武器は、87分に吉田麻也があげた3点目の足掛かりとなっている。
「チーム一丸となって戦う」とか「チームが一体となって」といった表現は、ほとんどの場合において先発と控えが精神的につながれた「一丸さ」や「一体感」を指す。
だが、選手にはそれぞれの強みがある。山口ではなく柏木がシンガポール戦で先発したように、対戦相手に応じて選手を使い分けてもいい。それでも一体感のあるチームが、本来は理想的だろう。