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川藤幸三が語った“タイガースの血”。
「ときにはアホ丸出しで結構」
text by
鷲田康Yasushi Washida
photograph bySports Graphic Number
posted2015/10/15 10:50
チーム内のまとめ役として'85年の優勝に貢献した川藤幸三。現在は阪神OB会長も務める。
「補欠ほど胸張らんかい」
――今回の本の中でも話されているように、阪神には悪しき伝統とも言えるスター主義があった。しかしチームがひとつになっていくためには、控え選手や移籍選手の役割が大きいということですね。
「レギュラー獲って、スターになったら認められる。これは当たり前の話です。企業なんかでも社長になって、役員になって初めて認められるようなもんです。でも、平社員じゃダメなんか、と。だって平社員がほとんど会社を作っていっとるんじゃない。だったら何も社長に媚び売ることはない。野球やったら補欠は何もスターや監督に媚び売ることはあらへんのや。だからワシがいつも思っていたのは、この監督に絶対にワシを使わせたろってことやった。そう思われる立場にならんと、補欠なんてごまんとおるんやから。だから逆に補欠ほど胸張らんかい、と言うんです。監督にこいつを使わないかんと思わせなかったら、補欠ではメシ食えんぞ、と」
試合前にまず首脳陣との戦い。
――それが控えの矜持ということですね。
「だから今も一軍半で行ったり来たりしているヤツらには言うとるんです。ヒーローになったときには『いやぁ、今日は監督に使ってもらったお陰です』なんて、これ言うな。『ドヤッ! 見たか! ワシがやったぞ!』ぐらいのこと言ってみい、と。そうしたらその選手はもっと認知される。その代わり言った限りには責任が重くなってくるんやから、もっとやらないかんようになる。階段というのはそういう風に上っていくんやからね。礼儀はきちっとせないかんけど、媚びは売らん。監督だって勝ちたいんやし、ワシも勝ちたいんや。だったら勝つためにワシが必要なのか、必要ないんか、どっちやねん、ということや。そうやって腹の中で刃を向けとけばいいんや。そういうのがなかったら、補欠は、一流の補欠にはなれへん。ワシはいつもそういう風に思っとったからね」
――ある意味、相手チームと戦う前に首脳陣との戦いですね。
「だからバット一本にかけたろ、と思うんやったら、それこそ首脳陣の前では練習する姿、見せるのやめよ、となる。ルール? 一切、破ったろ、となる。そうしたらどんどん、どんどん首の皮が薄くなっていくんやから。そうしてこの1打席となったときに、もうしょうがない、こんなヤツしかおらんのかい、と思われても、そこで1打数1安打1打点つければ、否が応でも、外すわけにはいかんやないか」