Number ExBACK NUMBER
“伝説の南ア戦”現地の観客席――。
勝利を見届けたNumberデスクの回想。
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph byAki Nagao
posted2015/10/09 12:30
日本の勝利に沸き立つブライトン・コミュニティスタジアム。
4年前から一変したジャパン。しかし、それでも――。
4年前、2011年のW杯の時はこんな感情は呼び起されなかった。ニュージーランドの北島、ファンガレイで行なわれたトンガ戦はカーワン・ジャパンの4年間の集大成となるべき試合だったが、試合前の控え組のアップを観ただけで負けを確信するほどの覇気のなさだけが印象に残っている。あの時に比べ――このエディー・ジャパンの戦士たちのいかに頼もしいことか。3大会連続の自費渡航、今回こそはモトが取れそうだと真剣に信じることができた。
しかし、それでも。
自分はジャパンの勝利を一片たりとも想像していなかった。想像しようとすることすらできなかった。
先の話になるが帰国後、Jスポーツの録画でこの試合を観返していたら、終盤、実況の矢野武アナウンサーがこんなことを言っていた。
「これまでの日本代表は、自分たちで自分たちの限界を決めていたかもしれません」
耳が痛かった。試合が始まってから、ジャパンが接点の攻防で互角以上の戦いを見せており、いける、という感触はあった。五郎丸歩のキックも当たっていて、これは勝負になる、とも思った。だが、本当に恥ずかしながら、自分が勝つことを想像できたのは、既に「勝った後」だった。現実に想像が追いつかない。コペルニクス的転回、という言葉が頭に浮かんだ。天地がひっくり返るとはこのことかと。
堀江翔太「南アくらいなら押せますよ」
大会前、取材の機会があり、堀江翔太が「南アくらいなら押せますよ」とさらりと言ったことを記憶している。山田章仁が「いやあでも、南ア、結構いけるんじゃないかと本気で思ってるんですけどね」と言ったのも直に聞いていた。
いずれも、南ア戦に負けることを前提に、スコットランド戦にどう挑むかという趣旨の質問をインタビュアーが投げた際の返答だった。頼もしい言葉と感じたが、取材者側としてそれをどれほど真剣に受け止めていたか。今となっては恥じ入るほかなく、両選手に敬服の念を禁じえない。
試合後、その場で南アのファンの握手攻めに遭った。「まいった」「すごかった」「信じられない」――。「いや、僕にとってもそうなんだけど」。半ば夢うつつの中、そう言いたい気分だった。自分はジャパンに完全にうちのめされていた。