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“伝説の南ア戦”現地の観客席――。
勝利を見届けたNumberデスクの回想。
posted2015/10/09 12:30
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph by
Aki Nagao
試合終了後、携帯電話に次々とメールが舞い込んできた。
「一生この話で酒が飲めるな」
「明日からラグビー始めるわ」
「泣いた?」
9月19日、英国南部ブライトンのコミュニティスタジアムで“あの試合”を目撃したばかりの筆者の元に、日本から感動と羨望の入り混じったテキストがひっきりなしに届く。
それらすべてをきちんと確認できたのは試合が終わって数分後だった。というのもその間、跳び上がったり抱きついたりを繰り返したために、当の携帯電話が上着のポケットから飛び出して落下し、行方をくらませていたからだ。
みな一様に昂奮して立ちあがっていた。
試合の詳細についてはNumber887号に大友信彦さんが熱いマッチレポートを寄せている。自分のことを思い返せば、最後の数分間は拳を握りしめて言葉にならない叫びをあげるばかりだった。いや、呼吸をするのを忘れるほど息を呑んでいたかもしれない。とにかくグラウンド上で展開する日本代表の連続攻撃を、目を見開いて凝視していた。「ジャ、パン!」「ジャ、パン!」の大唱和のなか、モスグリーンのジャージに袖を通した南アフリカのファンたちも、たまたま近くに陣取っていた早稲田大学ラグビー部の一団も、みな一様に昂奮して立ちあがっていた。
グラウンドの右隅にラックが出来て、日和佐篤から逆目の立川理道にボールが出る。立川がワイドに振ったボールが、待ち構えていたアマナキ・レレイ・マフィへ。アマナキ、左に流れながら突進、タックラーをハンドオフで外し、パスはマレ・サウを飛ばして――バックスと見紛う華麗なプレーだった――カーン・ヘスケス。ウソだ……ウソだ、ウソだ、トライ、トライ! 勝った! ウソでしょう! 最後はこんな感じ。
泣きはしなかった。強がっているわけではなく、ラガーマンが泣くのは試合前だ。大学時代のたった4年間ラグビーにうち込んだだけの自分でも、アップ、選手入場、君が代斉唱と見届けるうち、熱いものが目頭にこみ上げるのを抑えることができなかった。エディー・ジャパンの選手たちがこれまでどれほど血のにじむ心身の努力を重ね、どれほど家庭的犠牲を払い、どれほどこの試合に文字通り命を賭けているか、想像をしただけで。