フットボール“新語録”BACK NUMBER
1人あたり370万円で“家庭教師”を。
オーストリアサッカーが伸びた理由。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byGetty Images
posted2015/10/12 10:30
オーストリア代表のアラバ(バイエルン)は育成プログラム「プロジェクト12」の第1期生。個人指導に特化した同プログラムからドラゴビッチ(ディナモ・キエフ)、グレゴリシュ(ハンブルガーSV)などを輩出した。
タレント1人に年間370万円の予算。
さらに各分野の専門家が後方支援し、たとえば全選手の骨格を3次元解析して個別メニューの作成に生かす。日々の練習や健康状態は協会のデータバンクに登録され、成長度も細かくモニターされる。
期待の若手、ラザロは支援の恩恵をこう語る。
「個別のトレーニングとサポートによって、成長するのに最適な環境を作ってもらっている。他の若手のお手本となれるのはすごく嬉しいことだ」
当然、ビッグプロジェクトには資金がかかる。
スペシャルコーチの人件費として計30万ユーロ。各クラブへの補助金が計44万ユーロ。そしてアンダー年代の特別メニューに66万ユーロ――。1年間に計140万ユーロ(約1億8900万円)の予算が用意されている。
単純に選手51人で割れば、タレントひとり当たり約370万円が使われるということだ。
授業だけでなく、“家庭教師”で差をつける。
オーストリアサッカー協会が賢いのは、このプロジェクトにスポンサーをつけていることだ。ライファイゼン銀行、マクドナルド、コカ・コーラ、サッカーくじなどがパートナーとして出資している。企業としても、育成はイメージが良く、協賛しやすいのだろう。
もはや育成において、通常の“授業”だけでは差は出づらい。“家庭教師”による個人練習が不可欠な時代になりつつある。
個人練習を支えるスペシャルコーチの導入は、選手の小粒化、そして「同じような選手ばかりが出て来る」という金太郎飴化を、同時に解決するきっかけになるのではないだろうか。