フットボール“新語録”BACK NUMBER
1人あたり370万円で“家庭教師”を。
オーストリアサッカーが伸びた理由。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byGetty Images
posted2015/10/12 10:30
オーストリア代表のアラバ(バイエルン)は育成プログラム「プロジェクト12」の第1期生。個人指導に特化した同プログラムからドラゴビッチ(ディナモ・キエフ)、グレゴリシュ(ハンブルガーSV)などを輩出した。
「個人指導」に特化しているのが最大の特徴。
15歳から21歳までの選手が対象で、2009年から2012年に行われた第一期には、男子41人、女子10人が選ばれた。彼ら・彼女らは所属クラブでの練習に加えて、「プロジェクト12」が用意するスペシャルコーチから指導を受ける。最大の使命は、A代表の中心となることだ。
第一期からは、現代表で活躍するアラバ、ドラゴビッチ(ディナモ・キエフ)、グレゴリチュ(ハンブルガーSV)、ザビッツァー(RBライプツィヒ)が生まれた。2013年から第二期が始まり、レッドブル・ザルツブルクで10番を背負う19歳のラザロらが支援を受けている。
実はオーストリアは、すでに2003年から「チャレンジ08」という、EURO2008に向けた育成プロジェクトを始めていた。その土台があったからこそ、新たなプロジェクトとして進化させることができた。
「プロジェクト12」の最大の特徴は、「個人指導」に特化していることだ。
言うまでもなくサッカーは団体競技で、組織的なプレーは不可欠。一人よがりなプレーしかできなかったらプロでは通用しない。
ただ、個のスケールが小さかったら、いくら連携を磨いても限界がある。そこでオーストリアサッカー協会は、クラブに従来の育成を任せながら、加えて個を伸ばすことに取り組み始めた。
4つの領域について専門知識を持つ必要。
ケルン体育大学のヨアヒム・メシュター教授は、こう解説する。
「過去に比べて、個人練習の必要性が高まってきた。選手ごとに、性格、年齢、課題、ポジションに応じたメニューを用意すべきだ」
「プロジェクト12」のスペシャルコーチは、4つの領域について専門知識を持っていなければならない。サッカー、トレーニング方法、スポーツ医学、スポーツ心理学の4つだ。
ひとりのスペシャルコーチが5~6人の選手を担当して、それぞれに対して個別練習を行なう。わかりやすく言えば、サッカー版の家庭教師だ。