セリエA ダイレクト・レポートBACK NUMBER
セリエと食の切っても切れない関係。
サッカーはソウルフードで強くなる?
text by
弓削高志Takashi Yuge
photograph byAFLO
posted2015/10/08 10:40
ミラノ万博で作られた1.6kmの長さでギネス記録となったピザ。自国料理への愛の結晶と言えるだろう。
ソウルフードがパフォーマンスを上げる例も。
しかし、そのイタリア料理の万能性に異を唱える指導者もいる。かつて世界的な名GKとして名を馳せた闘将ゼンガ(サンプドリア)だ。
米国や東欧、中東で指導者経験を重ねた異色派の指揮官であるゼンガは、'05年にステアウア・ブカレストを率いてルーマニア・リーグ優勝に導いた。'04年にブカレストへ着任した当時、何ら管理されていなかったチームの食事メニューを見たゼンガは仰天した。
「選手たちは、濃い味付けのごった煮のようなルーマニアの伝統的料理を好んで食べていた。栄養学的にひどく偏っていると判断して、すぐにメディテラネア式メニューに変えさせた」
ところが、ルーマニアのトップ選手ばかりで構成されたはずのチームは、シーズン開幕後から低調続きであらゆる相手に走り負けした。手を焼いたゼンガが、例の煮込み料理を再び食事メニューに加えたところ、選手たちは「時速1000kmで走り出して、そのままリーグ優勝まで突っ走った」(ゼンガ)。
オリーブオイル消費量は1人あたり年間20リットル!
もし、FC東京のフィッカデンティ監督が「イタリア料理を3食摂れ」と命じたら、選手たちは受け入れられるだろうか。
イタリアのサッカー選手の朝食は、一般家庭のそれと大差はなく、ヨーグルトやフルーツ、甘い菓子パン類に、好みでエスプレッソかカプチーノが加わるだけで、塩分のある食品は食卓に上らない。
これだけでも積年続けていると、慣れない身には“力が入らない”と調子が狂いそうだが、さらに厄介なのは“体に良い”とイタリア人が万能薬のように崇めるオリーブオイルの扱いだ。彼らと同じように、年間一人当たり平均消費量20リットル(!)のペースで摂取していたら、日本人の胃腸機能は確実にダウンする。
オリーブオイルは日本でも随分普及したように思うが、それでも一人あたりの消費量は本場の約80分の1に過ぎない。Jリーグの若い選手たちがどれほど「パスタ好きです」と言っても、イタリア人と同じ量のオイル漬けでは、パフォーマンス悪化は待ったなしだ。
和食とイタリア料理に共通する“新鮮な食材をバランスよく食べる”というコンセプトを実践することが肝要なのだと思う。大一番や土壇場での精神的タフネスを大きく左右するのは、フィジカル・コンディションだ。サッカーがディテールの積み重ねであるなら、健やかな食生活も疎かにはできない日々の一手のはずだ。