One story of the fieldBACK NUMBER
“鳴くまで待つ”か“鳴かぬなら”か?
阪神と巨人の監督比較、秋の陣。
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph byNanae Suzuki
posted2015/08/28 10:30
球団からは来季続投も決まった、との声が聞こえてきた和田監督。1年契約で臨んだ就任4年目の今季、果たして優勝の夢を果たすか?
誰もが見離したマートンを、待ち続けた和田監督。
和田監督は我慢の人だ。
5月前、主砲マット・マートンはどん底にいた。ストライクゾーンへの不満に神経過敏になるあまり、フォームが崩れていた。それどころか、士気に関わるような無気力プレーまで見せる有り様だった。
「なんで、あいつは外されないんだ」
チーム内からも不満の声が漏れ始めていた。
そんなある日、指揮官は遠征先で久しぶりに散歩へ出掛けた。気分転換のはずだったが、出てくるのは、やはり悩みの種ばかり。
「今のマートンに何を言っても聞かないだろう。時間を置くしかないんだよ……」
初夏のような空の下でも、その表情はなかなか晴れない。ただ、そうこうして1時間ほど歩くうちに、次第にすっきりとした表情になっていった。
「やっぱり散歩するもんだな。気分がリセットする」
こうやって、いつも悩みを自分の胸の内で消化しているのだろう。そして、再びマートンを待ち続ける。
7月には、球団内で新たに左の大砲を獲得すべしという提案が上ってきた。電鉄本社も全面的にバックアップする意向を示していた。この時点で、マートンは“戦力外”になる寸前だったのだ。だが、ここで待ったをかけたのが和田監督だった。
「マートンが必要です」
マートンを待ち続けて……ついに猛打復活!
決断は吉と出る。
この後、マートンが打ち始めた。和田監督との対話により、ストライクゾーンへの過剰な意識を割り切ることができたのだという。8月になると猛然と打ちまくり、首位へ躍り出るチームのけん引役にまでなった。
“子供の頃、こんな先生がいれば良かったなぁ”
2人のストーリーを間近で見ていると、他人でさえそう思わされる。