One story of the fieldBACK NUMBER
“鳴くまで待つ”か“鳴かぬなら”か?
阪神と巨人の監督比較、秋の陣。
posted2015/08/28 10:30
text by
鈴木忠平Tadahira Suzuki
photograph by
Nanae Suzuki
セ・リーグが演じてきた歴史的大混戦にも秋の気配が近づいてくる。
ここにきてヤクルトの奮闘、広島の追い上げが夏の終わりを許さないが、後半戦、ずっと安定して上位にいるのは2つのチームである。
阪神と巨人。
去年も、一昨年も、上から2つのイスを占めてきた。最も戦力が整った両球団。本命と対抗だろう。ただ、この2チーム、指揮官のタイプは対極にある。
「鳴くまで……」と「鳴かぬなら……」。
待つ人と、動く人。
混戦が終わるとなれば寂しくもあるが、最終盤はこの両極対決が興味をかき立てる。
勝てる試合のはずが、まさかの1イニング12失点。
「いやあ、甘かったですわ!」
ベテラン鶴岡一成が悔しそうに顔をしかめて、ベンチに戻ってきた。
8月19日、東京ドームでの首位攻防第2戦。阪神は巨人の先発だった内海哲也から3点を先制し、なおも4回に無死満塁のチャンスを迎えていた。
相手の内野は前進せず、1点覚悟の陣形。だが、ここで8番鶴岡が三塁へ引っ張った打球は本塁併殺という最悪の形になった。
結局この回、1点も追加できず、その裏に先発の能見篤史が突然崩れて球団史上最悪の1イニング12失点の大炎上となった。
選手を信じ、全面的に任せて“待つ”和田監督。
「甘かったとかそんな問題じゃない。ベテランなんだから考えろよ! 右方向に打てば犠牲フライでも、ゴロでも1点入っただろう。あと1点取れば勝ちなんだ。それを思い切り引っ張るなんて……」
試合後、あるチーム関係者はヤケ酒をあおりながらそう言い放った。3連戦のうち1勝すれば御の字だった阪神は、この第2戦が最も勝てる確率が高いと計算していた。状態の上がらない内海なら得点できると踏んでいたのだ。そして、狙い通り先制したにもかかわらず、まさかの大逆転負け。ショックは大きかった。そのやり場のない不満の矛先が、鶴岡の一打に向いたのだ。
良くも悪くもこのシーンが阪神というチームを、もっと言えば和田豊監督の性格を象徴していた。内部の人間ですらこの場面をやり玉に挙げてしまうわけだが、ベンチは鶴岡に特別な指示を出していないのである。つまり、選手を信じ、任せた結果なのだ。