甲子園の風BACK NUMBER
なぜ甲子園の応援歌は懐メロが多い?
アルプス席の吹奏楽部を徹底検証!
text by
梅津有希子Yukiko Umetsu
photograph bySports Graphic Number
posted2015/08/14 09:00
ピンクレディーが歌った『サウスポー』は1978年の大ヒット作。作詞は阿久悠、作曲が都倉俊一という名コンビによる。
吹奏楽部が野球部に「曲は何がいい?」と聞くと……。
最近だと、AKBやももクロ、セカオワの曲など、いくらでも楽譜は売っているし、キャッチーでわかりやすい曲が多いから、難易度は高くない。にもかかわらず、いまだに綿々と懐メロを吹き続けているのはなぜなのだろうか?
学校にもよるが、野球応援をするにあたり、「野球部に、吹いてほしい応援歌を聞く」という吹奏楽部も多い。
吹奏楽部が野球部に「応援歌、何がいいかな?」とたずねても、「サウスポーがいい」「俺はトリトン!」など、野球部員からあがってくる曲は懐メロばかり、という現実があるのだ。
いったいなぜなのだろうか?
今大会の白眉。比叡山の『笑点のテーマ』。
「野球部員に『血の騒ぐ曲は?』とリクエストを聞いても、『憧れの先輩が打ったこの曲で』と、おなじみの懐メロをリクエストされることが多い」と、野球と吹奏楽の強豪・愛工大名電高校吹奏楽部顧問の伊藤宏樹氏は話す。
同様の学校は多く、今春の選抜にも出場した近江高校吹奏楽部顧問・樋口心氏も、「『アニメの曲でもAKBでも、何でも吹くよ』と言っても、『アフリカン・シンフォニー』や『ルパン三世』など、いつも同じ曲しか出てこないんですよ」と笑う。「全国的に同じ曲を吹く学校が多いので、うちならではのオリジナリティを出したいと思っているんですけどね」とも。
アルプススタンドで吹奏楽の応援ばかり聴いている身としては、出だしの音が鳴るたびに、「サウスポー!」「狙いうち!」「タッチ!」などと、イントロ当てクイズのように心身を研ぎ澄ませて構えているもので、たまには「おっ!?」と思う応援歌が出てきてほしい、というのが本音だったりする。
吹奏楽部の生徒が「今年は新曲を3曲入れてるんです」と言うので、「何の曲?」と聞くと、「トリトン、LOVE2000、ルパンです」と返ってくる。一般的に「新曲」というと今年発売の曲のことをさすと思うのだが、彼らにとっての新曲とは「今までにやっていなかった曲」のことらしい。こうして、結局のところ普通に懐メロがリクエストされてしまうということになってしまうのだ。
その点、今大会でいうと、初戦で敗退してしまったが、比叡山の『笑点のテーマ』は素晴らしかった。点が入るたびにアルプススタンドに流れる、おなじみ笑点のテーマ。ネット上でもずいぶんと盛り上がっていた。
つまり、「予算がなくて楽譜が買えない」でも「コンクール時期なので練習時間がない」でもなく、一番の理由は「野球部員のリクエストが懐メロだから」ということ。
彼らにとっては、自分が生まれる前の曲だろうが、歌詞を知らなかろうが、アニメを見たことがなかろうが、一切関係ない。「先輩がホームランを打った曲」「決勝で負けた相手が吹いていたカッコいい曲」で打席に立ちたいのだ。