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相馬野馬追を支える地元の馬事文化。
4年間で取り戻したもの、戻らぬもの。 

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島田明宏

島田明宏Akihiro Shimada

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photograph byAkihiro Shimada

posted2015/08/01 11:00

相馬野馬追を支える地元の馬事文化。4年間で取り戻したもの、戻らぬもの。<Number Web> photograph by Akihiro Shimada

甲冑競馬では、中之郷の騎馬武者、西勝正氏が騎乗したハギノコメントが逃げ切った。現在は南相馬市に繋養されているという。

友人の家の厩舎に馬を置き、そこから出陣。

 避難先からの出陣なのでどうしても話がややこしくなるのだが、今村さん父子と蒔田さんは、雲雀ヶ原祭場地に近い武田さんという友人の家の敷地にある厩舎に馬を置かせてもらい、そこから出陣している。相双地区にはこうした厩舎が多く、所有者の名前で呼ばれている。ここ「武田厩舎」には、5つの馬房を有する厩舎と洗い場がある。それらを、建設会社を営む今村さんが、去年全面的に無償でつくり直した。

 武田厩舎からは、今年早くも5度目の野馬追となる小学2年生の武田優心君も出陣している。優心君が乗る「サクラ」と名づけられた馬は、ここで飼われている。

 武田さんにとっては、サクラともう1頭のポニーが暮らす厩舎を新しくしてもらったわけで、そのお礼のような形で、今村さんや蒔田さんらがここから出陣できるよう便宜をはかっている。休憩時間には冷房の効いた部屋で休ませてくれたり、大量の飲み物や美味しいカレーライスまで出してくれて、それに私まで御相伴にあずかってしまい、申し訳なく思っている。

 ともあれ、このように、たくさんの人たちが支え合うことによって伝統がつながれているのが相馬野馬追という祭なのである。

殺到する馬群を怖がらずに「入っていく」のは牝馬?

 蒔田さんが今年乗ったのは、プレシャスベイブ(牝9歳、父グランデラ)という、かつて美浦・星野忍厩舎にいた馬だった。今村さんは、昔の名前がわからない被災馬、息子の一史さんは、螺役(かいやく)として法螺貝を吹くので、音に動じない一番おとなしい馬ということでマンハッタンムーン(セン10歳、父アグネスデジタル)という元競走馬で出陣した。

 神旗争奪戦に参加する騎馬武者たちがよく使う言葉に「入って行く」というものがある。これは、落下してくる旗に殺到する馬群を怖がらずに、間を割って入って行ける度胸がある馬にあてる言葉なのだが、面白いことに、牝馬のほうがすんなりと入って行くことが多いという。

 蒔田さんのプレシャスベイブも怯まず馬群に入って行き、最後に打ち上げられた旗をつかみとったのだが、奪い合った相手の顔を見たら同級生だったので、「貸しにしておくぞ」と譲ったという。

【次ページ】 神事・野馬懸に今年もワンダーバンザイが参加。

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