eスポーツは黒船となるかBACK NUMBER
ゲームの上手さは才能か、努力か。
現役プロ、学者、解説者が語る真実。
text by
八木葱Negi Yagi
photograph bySANKO.INC/Negi Yagi
posted2015/07/15 16:30
eスポーツプレーヤーと「ゲームが上手い人」の間には、大きな隔たりがある。その差は才能なのか、努力なのか、はたまたその両方なのか……。
ある実験でeスポーツ選手が記録した突出した数字。
ゲームの教育効果やプレーヤーに与える心理的な影響などを研究している馬場教授の研究室では、かつてeスポーツプレーヤーを招いて彼らの能力を計測する実験を行ったことがある。その実験では、一般プレーヤー、上級プレーヤー、そしてeスポーツ選手の間で、ある明確な差が出たという。
「eスポーツの世界でプロになるような選手は『遂行能力』と呼ばれる能力が突出して高いです。集中力や交渉力、合理的な思考力などを測る7種類のテストをeスポーツ選手に対して行ったことがあるのですが、その全てで彼らは極めて高い値を記録しました。一般プレーヤーの中でも上位であればあるほどスコアは伸びますが、プロ選手の記録は全くレベルの違うものでした。
ある程度生来の能力によって決まってしまう部分もあると思うのですが、遂行能力自体は訓練によって伸ばすことができます。ゲームプレーについても、後天的な訓練による割合はかなり大きいと思いますね」
「遂行能力」は言い換えれば「物事を成し遂げる能力」である。さらに馬場教授は、eスポーツ選手の現役引退後のキャリアとして、新規事業の拡大や海外進出など、戦略性が問われる職場ではゲームプレーヤーの力や経験が大きく役に立つ可能性があると教えてくれた。ゲームプレーに必要な能力、そしてゲームをプレーすることで身につく能力、というのが確かにあるのだ。
トップシーンを誰よりも見てきた2人は、何を語るのか。
最後に、「ゲームの上手さ」についての疑問を解決するために最適な2人に話を聞くことができた。LoLの日本トップリーグで専属実況を務めるeyes(写真左)氏と、解説を務めるRevol氏だ。
まず「ゲームが上手い」ということについて、世界のトップシーンと日本のトップリーグを誰よりも見てきた2人はどう考えているのだろうか。
eyes 「プロになるような選手たちが圧倒的に優れているのは、情報の吸収力です。画面を見て、プレーヤーの位置や数字を把握する速度が普通の人とはまったく違いますね。アメリカで、あるスター選手の視線の動きをモニターした実験があったんですが、5秒間画面を見せただけで、画面上のあらゆる要素を記憶して、さらに次にどんな行動をすればいいか、まで彼らには分かってしまうんです。情報を吸収して、判断して、実行する。そのスピードと精度の差が『上手い』ということだと思います」
Revol 「個人的には、自分のプレーを反省して、それを修正する能力が上位プレーヤーの条件だと思います。あとプレーを見ていて驚くのは、リスクがリターンを上回るギリギリまで攻めることですね。一見無謀かと思う行動でも、超えちゃいけないラインは絶対に超えない。そのリスクの見極め方は見事としか言い様がないです」
“脳の瞬発力”とでも表現できるような能力が、プロ選手と一般プレーヤーを分ける大きな壁だという意見だ。では、それは才能なのだろうか、それとも努力の量なのだろうか。
eyes 「7対3くらいで才能というか、生まれつきの差が大きいと思います。シューティングゲームのプロが、引退後に無人偵察機のパイロットとして空軍にスカウトされる、なんていう話もありますし、全然モノが違います」
Revol 「才能については……どうなんでしょう、LoLって他の競技や、他のゲームと比べても、そこまで身体能力を必要とするゲームではない気がするんですよね。割合で言えば、5対5くらいかなぁ。ただ、世界のトッププレーヤーはほぼ20代前半で、年齢の壁は大きいかもしれません」