フットボール“新語録”BACK NUMBER
日本代表には、「走る技術」がない?
岡崎慎司の専属コーチが語る本質。
text by
木崎伸也Shinya Kizaki
photograph byTakuya Sugiyama
posted2015/07/13 10:40
岡崎と杉本の出会いは2005年、清水エスパルスで。「足が速くなりたい」と願う岡崎に、杉本は監督を務める浜松大学陸上部に呼んで特別に指導した。
「日本人は複数の動きを織り交ぜるのが苦手」
留学時代に五輪メダリストクラスの陸上選手を目の当たりにした杉本にとって、日本のカウンターは“初心者が運転するマニュアル車”のように見えている。
「多くの日本人選手は、ボールを受ける前に減速してノッキングしてしまう。その間に相手DFが戻って、捕まってしまうというのがお決まりのパターンです。唯一、日本代表の中でスピードを落とさずにボールコントロールができているのが岡崎。ドイツで2シーズン続けて10得点以上決められたのは偶然ではありません」
杉本が指摘するように、日本代表は高速カウンターが苦手だ。
丁寧につなぐ意識が高すぎるためか、カウンターの際も安全運転まで減速してしまう。2012年10月のフランス戦では長友佑都や今野泰幸が全速力で走って得点につなげたが、そういうシーンは稀だ。ハリルホジッチが縦に速いサッカーを求めても、いまいちスピードが上がり切らないのは「減速しないとボールを扱えない」ことと関係しているだろう。
実はこれは、サッカーだけの問題ではない。杉本はバスケットボールを例に出した。
「NBAの選手のダンクシュートを見ると、ジャンプしたあとに体をねじるなど動きに変化をつけられる。でも、日本人はそれが苦手です。研究でよく出される話なのですが、箸や彫刻刀を使うといった単体の動きに関しては、日本人は欧米人より格段に器用なんですね。ところがジャンプしながら何かするといった2種目、3種目の動きを織り交ぜるとなると日本人の器用さは途端に落ちる。サッカーもそうで、止まった状態ではうまいんですが、動きながらボールを扱うことに関しては落ちてしまうんです」
ポゼッション、という言葉が流行り走りが疎かに。
速い移動速度の中で、もう1つの動作をする――。日本サッカーは今、その壁に直面している。
「世界がどんどん走るサッカーをしているのに、南アフリカW杯以降、日本ではポゼッションという言葉が流行ってしまった。走ることへの着目度が、日本サッカー界で格段に落ちてしまったと思うんですね。そうしたらブラジルW杯のような結果になってしまった。
レアル・マドリーを見たら、全力疾走したままピタッピタッとボールを止められる選手がそろっている。クリスティアーノ・ロナウドはもちろん、ベンゼマを見たときは驚愕しました。日本の戦術家と呼ばれる人たちは、パワーとスピードをきちんと計算式に入れられてない印象がある。一方、ペップやモウリーニョはそこまで落とし込んでロジックを考えていると思います」