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日本代表には、「走る技術」がない?
岡崎慎司の専属コーチが語る本質。 

text by

木崎伸也

木崎伸也Shinya Kizaki

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photograph byTakuya Sugiyama

posted2015/07/13 10:40

日本代表には、「走る技術」がない?岡崎慎司の専属コーチが語る本質。<Number Web> photograph by Takuya Sugiyama

岡崎と杉本の出会いは2005年、清水エスパルスで。「足が速くなりたい」と願う岡崎に、杉本は監督を務める浜松大学陸上部に呼んで特別に指導した。

徐々に加速するのではなく、一気に加速してから「抜く」。

 だが、日本にチャンスがないわけではない。実際、杉本の指導によって岡崎はトップスピードのまま正確にプレーできるようになったのだ。

 弱点を克服する鍵は「走り方」にある。

「走る動作というのは、『ゆっくりした状態から速度を上げる』ことにはすごくエネルギーがいります。一方、『速度を上げてから抜く』ことの方が圧倒的に楽です。だから最初の2、3歩でガッとスピードを上げて、あとは力を抜くのがいい。脱力したまま、慣性の法則で進むということ。そうすればスピードを保ったまま、止まった状態と同じスキルを出せる。

 岡崎の裏への動き出しがまさにそうです。しっかり最初に加速してスピードに乗り、パスが来たときに余裕を持った状態でボールを受けられる。とにかく動き出しの2、3歩は『さぼるな』と指導しています」

地面を蹴るのではなく、筋肉の収縮で走る。

 杉本メソッドにおいて、ポイントになるのは「走るときに地面を蹴らない」ことだ。踏ん張るのではなく、足を前に振り出す力と、大きく開いた足の収縮力を利用する。そうするとロスが少なく、1度加速したスピードが長持ちしやすい。

「振り子の原理でビューンと前に足を振り出すと、着地したときに足が目一杯に広がった状態になります。そうすると股関節を動かす腸腰筋が張りますよね? 引っ張られたゴムを離すと勢い良く縮むのと同じで、その力で足が前に出る。地面を蹴ると毎回、片足スクワットをしているようなものですが、この走り方は違う。ヨーロッパの選手たちが粘土質の柔らかいピッチでも滑らないのは、地面を蹴って走っていないからなんですよ

 腸腰筋のバネ(張り)は、遊脚(振り出す脚)が大きく前方に振り出され、かつ支持脚(軸足)がまだ接地している状態になると発揮されます。つまり支持脚が地面に接地しつつ、股関節の可動域が大きくなった状態です。また、この時に腰が後ろに逃げてしまうと腸腰筋が張らなくなり、バネ効果は小さくなります。ですから姿勢が悪いと走れなくなります」

 この走り方のイメージとしては、足を地面に着地させるタイミングで1、2とリズムを取るのではなく、太腿を上げるたびに1、2と数えることだ(詳しくは杉本龍勇監修『スポーツに活きる! 正しい走り方講座』を参照)。とにかく地面を蹴るという先入観を変えなければならない。

【次ページ】 球際の弱さは、そもそもの寄せ方が関係している。

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