Jをめぐる冒険BACK NUMBER
“スタンダード”が揺らぐ川崎の苦悩。
何故パスはつながらなくなったのか。
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph byJ.LEAGUE PHOTOS
posted2015/06/15 10:30
川崎は不動の中心がかつては中盤にあったが、その求心力は揺らぎつつある。果たしてJ屈指の個性あるサッカーはどうなるのだろうか。
小林悠、大島僚太の離脱が悪影響のドミノに。
しかし、何かを得れば、何かを失うことになるものだ。
ただでさえ開幕当初は、攻守において気の利く森谷が負傷で不在だったため、右サイドの連動性や、右サイドからボランチへのサポートが減っていた。
さらに、新シーズンの布陣をあれこれ模索しているうちに、前線でDFを外す動きを繰り返し、裏へも足元へもパスを引き出せるFW小林悠と、中村のベストパートナーである大島が負傷離脱し、スタイルの基盤を成す中心選手が次々といなくなってしまったのだ。
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失った事情は、ケガ人の話ばかりではない。大島の代わりに森谷をボランチで起用すれば“右サイドハーフの森谷”を失い、谷口をボランチで起用すれば攻撃の起点となれる“センターバックの谷口”を失った。こうして、つなぐ精度や崩しの緻密さが著しく落ち、チャンスが作れなくなっていく。
大久保の「もっとシンプルに」という苛立ちもわかるが。
「つなげないなら、ロングボールを裏に蹴るか、クロスを入れてくれって思う」
現状を見かねてこう主張するのは、エースストライカーの大久保嘉人だ。前線で待っていても一向にチャンスが来ないのだから、苛立つのも当然だろう。
しかも現在、小林に代わって大久保のパートナーを務めているのは、身長187センチの杉本健勇だ。新加入の彼は「DFを外す・パスコースに顔を出す」といった動きの質はまだ拙いが、ヘディングやボレーなどアクロバティックなゴールをマークしている。攻撃陣が「もっとシンプルに入れてくれれば、何かが起きる」と思うのも無理はない。
だがこうした主張が、チームのスタンダードを複雑にしているようにも思える。
ロングボールやクロスを放り込むのと、ショートパスによって複数の選手が連動して攻めるのとでは、ポジショニングやサポートの仕方が大きく異なるからだ。
湘南戦でも、スタンダードが変わってきたと感じさせる場面があった。
左ウイングバックの小宮山尊信が前半に2度、敵陣の深い位置でボールを受ける場面があった。昨シーズンまでならいったん戻し、コンビネーションでニアゾーンか中央を突くようなシチュエーションだったが、2回とも単独で仕掛けてクロスを入れようとした。
近くにサポートがいないからクロスを入れるしかなかったのか、クロスを入れることが分かっているから、誰もサポートしなかったのか……。