Jをめぐる冒険BACK NUMBER
“スタンダード”が揺らぐ川崎の苦悩。
何故パスはつながらなくなったのか。
posted2015/06/15 10:30
text by
飯尾篤史Atsushi Iio
photograph by
J.LEAGUE PHOTOS
いるはずの男が、そこにいなかった。
6月7日の川崎フロンターレ対湘南ベルマーレ戦。先頭を切って入場してきたのは、腕章を巻いた大久保嘉人だった。選手がピッチに散らばったとき、ボランチの位置に就いたのは、森谷賢太郎と谷口彰悟だった。
本来、腕章を付けてボランチを務める男――中村憲剛の姿は、ベンチにあった。
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たしかに今シーズンの中村は、昨年末に受けた手術の影響もあって、コンディションの維持に苦しんでいるところがある。
とはいえ、これまで風間八宏監督は「憲剛はたとえ50%の力でしかプレーできない状態でも、その50%を100%でやってくれればいい」と、絶大なる信頼を置いてきた。
湘南戦の2週間ほど前にも「オレのサッカーを一番理解しているのがオマエなんだから、停滞されたら困るんだ。もっと楽しんでプレーしろ」とハッパをかけている。それだけに、たとえベストの状態ではないと判断したのだとしても、たとえスーパーサブの役割を期待したのだとしても、指揮官にとって簡単な決断でなかったことは想像に難くない。
ボランチがプレスの餌食になる場面が多い今季の川崎。
かくして中村を先発から外した湘南戦。後半に2-1と逆転したものの、前半は川崎の抱える問題が噴出したような内容だった。
早くも4分、クロスに対するマークミスを突かれ、もったいない形で失点してしまう。主導権を握り返そうとディフェンスラインから攻撃を組み立てようとするものの、2ボランチから有効なパスが展開されない。
パスコースが見つからず、ボランチ間で不毛なパス交換を続けたり、ディフェンスラインに戻したりするうちに、湘南の選手に襲いかかられ、森谷と谷口がボールを失ったのは、一度や二度のことではなかった。
もっとも、川崎のボランチにミスが続いたのは、中村が不在だったからではない。今シーズンは中村がいてもパスが回らず、ボランチがプレスの餌食になる場面が多いのだ。
森谷と谷口だからボールを失ったわけではなく、中村のコンディションが悪いから潰されるわけでもない。ボールを失わず、あれだけ面白いように敵を攻略していたチームの心臓部に、いったい何が起きているのか――。