野球クロスロードBACK NUMBER
トミー・ジョンから、急がば回れ。
楽天・釜田佳直が過ごす我慢の時。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byGenki Taguchi
posted2015/05/29 11:00
手術前は最速153キロのストレートを誇っていた釜田佳直。中学1年までは捕手だったが、甲子園での斎藤佑樹と田中将大の投げ合いを見て監督に投手転向を直訴したという。
手術から丸1年ぶりのマウンドで釜田は……。
手術から丸1年が過ぎた今年の3月6日。教育リーグの日本ハム戦で、'13年10月13日のオリックス戦以来509日ぶりに対外試合のマウンドに立った。
久方ぶりに体感する緊張感。釜田はそれを「楽しかった」と素直に表現したが、野球に対する向き合い方にも変化が起きたと続ける。
「怪我をする前は試合で投げることが当たり前だと思っていましたけど、今はその大変さがすごく分かりますね。淡々と投げるんじゃなくて、1球、1球、意味のあるボールを投げるっていうんですかね、その難しさをすごく感じるようになりました」
今の日本球界にとって、「トミー・ジョン手術をした」という経歴は、あまりポジティブに受け取ってもらえないのが実情だ。
しかし、同手術は「復帰率9割」と言われるほど信用性が高い。つまり、復帰への方法論さえ間違わなければ、故障前と変わらぬパフォーマンスが約束されるはずなのだ。
ポイントは、復帰を急がないこと。
ポイントとなるのは、復帰を急がないこと。
現に、'13年に手術を行なった中日の吉見一起は今季、3勝、防御率0.90と抜群の数字を残している。規定投球回数に達していないのは、中10日前後のローテーションで登板しているからであり、「完全復活するまで無理をしない」という表れでもある。
釜田もそう。今はまだ焦る必要などないのだ。復帰登板を果たした際に、大久保博元監督は「交流戦くらいに一軍に来てくれたら1000点」と言っており、ファームでの釜田の成績ならば、すぐにでも一軍から呼ばれてもおかしくはない。
それでも釜田は、自分の足元をしっかりと見つめながらこう切り出すのだ。
「一軍に上がれるかどうかって位置にいられる幸せは感じていますよ。二軍でも試合で投げている以上は競争に勝っていかないといけないですし、一軍で必要とされる存在に早くなりたいとはいつも思っています。でも今は、与えられたポジションをしっかりとこなすというか、まずはベストな状態で投げられるようにするほうが先決なんで」
釜田の一軍昇格は、交流戦期間中はおろか、その先もなかなか訪れないかもしれない。だからといって悲観することはない。
彼はまだアイドリング中なのだ。
釜田が一軍登板を果たす。それはすなわち、彼の完全復活を意味する。