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新国立競技場の迷走はチャンスだ!
「聖地」に相応しい設備と思想を。
posted2015/05/24 10:50
text by
松原孝臣Takaomi Matsubara
photograph by
AFLO
新国立競技場の建設計画が迷走している。
5月18日、下村博文文部科学相と舛添要一東京都知事との会談の際、計画の大幅な見直しが明らかになった。
当初の計画では、開閉式の屋根を設置することになっていたが、それをやめて、競技場の屋根の一部は2020年の東京五輪後に整備するとした。また、観客席のうち1万5000席を大会後に取り外せる仮設にするという説明もあった。したがって、サッカーのとき、陸上のときなど用途に応じて動く伸縮型の可動スタンドもなくなることになる(会談では屋根なし、3万席を仮設にするという趣旨の発言があったが、のちに屋根は観客の上には設置すると訂正された)。
大きな変更である。
原因となったのは、1つには、現行のままでは完成が間に合わないという見通しにある。最初にザハ・ハディド氏のデザインが採用されたときから、そこで描かれた屋根の工事は難しいのではないかと指摘が出ていた。
また、当初の見積もりから建設費用が増大するのが見えてくると、それを抑えるために修正を試みてきた。それでも、費用はふくらみこそすれ減る気配はなかった。工期の問題とあわせ、今回の見直しの大きな理由の1つだ。
強化費用の取り崩しやtotoの売上げの一部を充てるも……。
実際、費用は大きな懸念材料だ。資金不足を埋める策として、今年3月にはJSCが強化や普及のために積み立てていたスポーツ振興基金のうち、政府出資の250億円を取り崩すことが決まった。スポーツ振興くじ(toto)の売り上げの5%までを建設費にあてることができるという現在の法律を改正し、上限を引き上げることも検討されている。
新国立競技場に限らず、当初の見通しが甘かったケースは他にも複数ある。中でも最も乖離が大きかったのは、カヌー・スプリントとボート競技を行なう海の森水上競技場の建設費用だろう。当初の見積もりは69億円だったが、実際はその10~15倍の額になると見られ、計画自体の見直しが進められている。会場の変更を打ち出している例も少なくない。こうした計算違いの象徴が、新国立競技場かもしれない。