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<J助っ人外国人から日本への提言> ピエール・リトバルスキー 「長期的視野でチーム作りを」
posted2015/05/06 10:00
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph by
Koji Asakura
日本サッカーをつぶさに観察した5人の先達。
岐路に立つ今こそ胸に響く、その熱きエール。
Number874号「創刊35周年特集号 日本サッカーへの提言。」より、
ドイツの名ドリブラー・リトバルスキーからのメッセージを全文公開します!
戦術やフォーメーションは、どれが望ましいのか。決定力不足の問題を解決する妙手はあるか。コンディショニングの理論は正しいのか。現在、日本代表を巡っては、様々な議論が戦わされている。
しかし、未来を拓くために必要なのは、この種のテクニカルな議論ではない。たしかに私自身、過去には幾度となく提言を行なってきた。協会のスタッフが、地道な努力を積み重ねてきたことも指摘するまでもない。だが日本代表は、さしたる進歩を遂げてこなかった。むしろ実際には、堂々巡りをしてきた印象が強い。
最大の原因が、監督の起用法にあるのは明らかだ。日本では4年おきに代表監督が交替する。その度に新たなガイドラインが提示されるため、毎回、ゼロからの仕切り直しを余儀なくされてしまう。選手の能力が上がってきたにも拘らず、独自のスタイルを未だに確立できずにいる所以だ。
それどころか最近では、一種の停滞に陥ったふしさえある。たとえば選手の連帯感において、現代表は'93年のチームを上回っているだろうか? 戦術もしかり。素早いパスワークと攻守の切り替えは、日本の特徴だとされていたが、今でも世界に通用する武器たり得ているのか。
語弊を恐れず言うなら、定期的に外国人監督を招くやり方は、完全に限界に達している。その事実が如実に明るみに出たものこそ、ブラジル大会の惨敗であり、アジアカップ敗退だったように思う。
サッカーの方向性より、選手のメンタリティー把握を。
では何が必要なのか。悪循環に終止符を打つためには、チーム作りのプロセス自体を根本から見直さなければならない。
これまでの日本では、まず目指すべきサッカーが検討され、その指針に基づいて代表監督の選考が進められてきた。
だが人選の際には、サッカーの方向性よりも、選手のメンタリティーを理解できるかどうかの方が、はるかに重要なはずだ。日本人選手はとても真面目な反面、精神的にデリケートな面を持ち合わせている。ディシプリンを守る意識も高いだけに、よりきめ細かな指示を欲しがるからだ。
香川真司のケースなどは象徴的だろう。マンチェスター・ユナイテッドからドルトムントに復帰してきた当初、彼のプレーに迷いが見られたのは、チーム内の人間関係が微妙に変わっていたのと無縁ではない。勝手のわかった古巣のクラブでさえこうなのだから、一緒に活動する期間がただでさえ短い代表チームの場合は、ベンチとピッチの間に、完全な信頼関係と深い相互理解があることが大前提になる。