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権田修一と榎本達也が話し合うこと。
10歳差、2人のGKの不思議な関係性。
posted2015/05/07 11:00
text by
二宮寿朗Toshio Ninomiya
photograph by
J.LEAGUE PHOTOS
脂の乗ってきたFC東京の守護神・権田修一を、ベンチからじっと見つめる目がある。
26歳の日本代表より、年は10歳上。昨季限りで栃木SCと契約非更新となり、トライアウトを経てFC東京に呼ばれたベテランGK榎本達也である。
1999年のワールドユース準優勝組で、2004年“最後のチャンピオンシップ”でPK戦を制して横浜F・マリノス優勝の立役者となった彼は、輝かしい実績を残しながらも、その後はいくつかのクラブを渡り歩いて苦労を重ねてきた。
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ピッチ内外で妥協なく取り組む姿勢は昔からあい変わらずで、マリノス時代にはケガで入院した病室にサッカーの映像を大量に持ち込んで驚かれたエピソードを持つなど、どこまでも研究熱心な男だ。
サッカーに対する向きあい方そのものが、どことなく権田とダブる。彼がこれまで他のキーパーについて語ったことなど記憶にあまりないが、「ゴンちゃんはいいキーパーだよ」と10歳年下のGKの類まれなポテンシャルを誰よりも認める。そして言葉をこう続ける。
「自分がもっとうまくなるために、ゴンちゃんともいいコミュニケーションを取って、自分のなかに入れてみたい。俺は自分で下手だと思っているし、いいものを取り入れていかないと置いていかれてしまうから。36歳になった今、身体能力でバンバン止められるわけないし、何でカバーするかと言ったらポジショニング。そこで上乗せしていければ、セービングで2mも3mも飛ばなくたって判断良く最短の距離でキャッチできるし、まだまだ勝負できるって思っているから」
36歳になろうともうまくなるためのヒントを、認めたチームメイトから得ようとする。だからこそ彼は、ベンチから熱い視線をゴールに注いでいる。
権田にとっても、榎本はまさに生きた教科書。
榎本の確かな目。
プレーを参考にして自分に取り入れたいという彼の目的はありつつも、権田からすれば客観的に自分を熱心に見てくれている信頼できる目でもある。言うまでもなく権田自身も、経験豊富な36歳をリスペクトしている。信頼を置く山岸範之GKコーチらと同様に、榎本にも試合の感想を求めることがよくあるという。
「エノさんはテレビで見ていた人。U-19のアジアユースのときも、マリノスで優勝したときもずっと見ていたし、プロに入って神戸と対戦したときに“わっ、榎本さんだ”って思ったぐらいですから。話をしていても、練習を見ていても勉強になりますし、エノさんからプレーを評価されたときには自信になります。失点したケースでは“どうでした?”って聞くと、“こうしたほうが良かったのかもしれないね”ってダイレクトに言ってくれることもあります」