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<J助っ人外国人から日本への提言> ハンス・オフト 「CF不在でなく、原点回帰が課題」
posted2015/05/03 10:00
text by
田邊雅之Masayuki Tanabe
photograph by
Koji Asakura
日本サッカーをつぶさに観察した5人の先達。
岐路に立つ今こそ胸に響く、その熱きエール。
Number874号「創刊35周年特集号 日本サッカーへの提言。」より、
ドーハの悲劇の指揮官、ハンス・オフトからのメッセージを全文公開します!
国の代表であるとクラブであるとを問わず、すべてのチームには調子の波がある。それは日本代表も例外ではない。
しかし昨夏のW杯ブラジル大会では、調子の波に左右されたというよりも、自らハンドブレーキをかけてしまった印象が強い。ゴール前に引き過ぎ、慎重なプレーに終始したからだ。結果、日本代表は持ち味を発揮できずに、早々と大会から姿を消している。16強まで行けるチャンスが十分にあっただけに、私はなおさら残念に感じた。
むろん日本がイタリアのように守備が強いなら、カウンター狙いの守備的な戦い方をしても構わないだろう。だが日本のストロングポイントはそこにはない。本来は積極的にパスを回しながら、どんどん敵陣に入っていこうとする姿勢こそ、彼らの武器だったはずだ。
その意味でブラジル大会の結果は、選手の質ではなく指導者のコンセプトワーク、すなわちチーム作りや戦術立案上の齟齬を反映していたと言えるのではないか。
攻撃陣が崩し切れなかったことこそ問題の本質。
この問題は、アジアカップにも共通する。日本代表はUAE相手に完璧にゲームを支配し、シュートを35本も打ちながら引き分けに持ち込まれ、最後はPK戦で敗れてしまった。結果、大会後はCFの不在という問題が取りざたされた。
しかし、よく考えてみてほしい。原理的に言うなら、CFがいなくとも点を取ることは十分に可能だし、そもそも日本は、CFに頼るようなサッカーをしてこなかったはずだ。
つまり、ここで問われるべきは、なぜCFが台頭しないのかではなく、なぜあれだけ多彩な攻撃陣を擁しながら、相手を崩しきれなかったのかになる。
アギーレ前監督のスタイルに残った、ある“疑問”。
アギーレ監督が、どんなコンセプトでチームを作ろうとしていたかについては、外野から推測するしかない。だが目指すべきサッカーの方向性を見極めることができていたか、日本人選手の特徴を踏まえた上で、独自のスタイルを発展させようとしていたかという点については疑問が残る。
たとえばイングランドにはイングランドの、スペインにはスペイン独自のスタイルがある。これは4-4-2や4-3-3といったような布陣や、細かな戦術論などとは別物の話だ。フィジカルコンタクトの有無と強度、パスの出し方と受け方、プレッャーの掛け方、自陣に引いてカウンターを狙うのを得意とするか、縦方向に速いサッカーを好むか、あるいはボールポゼッションを重視したプレーを志向するのかといったような、長年の伝統や選手の特徴を踏まえたものだ。こういう基本的な指針があればこそ、チームは様々なバリエーションをつけて戦うこともできるようになる。
ならば日本のスタイルとは何か。