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錦織圭がクレーに持ち込んだ“革新”。
バルセロナを連覇したもう一つの意義。
posted2015/04/28 16:00
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph by
AFLO
両手を宙に突き上げ、勝利をかみしめた錦織圭だったが、次の瞬間、その表情に苦味が加わった。苦行から解放された安堵のため息が聞こえてくるような、ほろ苦い笑顔だった。
連覇を懸けて挑んだバルセロナオープン(スペイン)は、錦織にとってのクレーコートシーズン開幕戦だった。初戦の2回戦からずっと快調で、大会第1シードの貫禄を見せた。対戦相手は皆、錦織の早い展開に戸惑い、試合序盤からリスキーなプレーを強いられた。
彼らは早々に“この相手には捨て身で挑まなければ何も起きない”と悟り、みずからのスタイルを捨てイチかバチかの攻撃に打って出たのだろう。錦織はこれをあっさりかわし、順調に勝ち進んだ。
準決勝では昨年の全仏オープン1回戦で完敗したマルティン・クリザンと当たったが、6-1、6-2と完璧にリベンジした。
連覇のかかる決勝で、ノーシードの相手を前に……。
ところが、パブロ・アンドゥハールとの決勝は一転、厳しい試合となった。ノーシードのアンドゥハールは、準決勝で第3シードのダビド・フェレールにストレート勝ちするなど、絶好調で勝ち上がっていた。もともとクレーコートを得意とする選手。一戦ごとに自信を増し、決勝ではボールの伸びといい、状況判断の的確さといい、トップ10クラスのプレーだった。
逆に錦織は「緊張していた」と振り返ったように、終始硬さが目立ち、ラケットの振りが鈍かった。
連覇のかかる決勝の舞台で、ノーシードの相手と当たるのは嫌なものだろう。勝って当然という重圧は、どんな選手にとっても最大の難敵だ。これまで2勝1敗と勝ち越している相手だったが、2年前には同じクレーコートのマドリードで敗れている。ただでさえ厄介な選手が、好調の波に乗り、鼻息を荒くして挑んでくるのだ。
試合後、錦織は「体も100%ではなかった」と話した。大きな故障はなかったが、疲労の蓄積は右手首や股関節、腰といった古傷にも影響を与えかねず、「気にしながら」の戦いとなった。