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錦織圭がクレーに持ち込んだ“革新”。
バルセロナを連覇したもう一つの意義。
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byAFLO
posted2015/04/28 16:00
ツアー通算9勝目を挙げて、日本人単独最多となった錦織は全仏オープンに対して「どれだけできるかワクワクしている」とコメントしている。
今、世界のテニス界はクレーコートが主流。
過去に大会を連覇したのはわずか6人(1968年のオープン化=プロ解禁以降)。ナダルをはじめ、イリー・ナスターゼ、イワン・レンドル、マッツ・ビランデル、トーマス・ムスターら、世界ランク1位を極めた、そうそうたる名前が並ぶ。そこに錦織が名を連ねたのだ。
ただ、超が付くくらいのリアリストである錦織にならうなら、優勝者リストに名前を載せたことより、クレーで連覇という事実にこそ目を向けるべきだろう。
日本ではあまり一般的なコートサーフェスではないが、今、世界のテニス界はクレーコートが主流といっても過言ではない。
近年、世界の上位に駆け上がるために必要なのは、例えばサーブ力のようなひとつの突出した武器ではなく、技術、戦術、メンタル、フィジカル、細かく言えばフットワークやスタミナ、忍耐力などをすべて含めた総合力とされている。そして、勝者に求められるこれらの要素を満遍なく手に入れることができるのが、クレーコートでの育成と、このサーフェスでの試合の積み重ねだと考える指導者が多い。
実際、ジョコビッチやナダルなどヨーロッパのクレーコートで育った選手がランキング上位を占め、ハードコートでの育成が主体のアメリカは、特に男子選手の退潮が目立つ。
クレーに持ち込んだ、速いテンポのグラウンドストローク。
欧州のクレーの大会では、当然、クレーコートの戦いの本質を骨の髄から理解している選手が活躍する。ところが、その欧州選手の牙城に、日本で生まれアメリカで育った錦織が食い込んできたのだ。
昨年のバルセロナ優勝とマドリード準優勝で、錦織は総合力の高さを示した。そして、見逃せないのは、主にハードコートで磨いてきた速いテンポのグラウンドストロークを、ほぼそのままクレーコートの戦いに当てはめ、成功を勝ち得たことだ。
今回の連覇で、錦織が正しい道を歩んでいることが誰の目にも明らかになった。ほぼDNAレベルでクレーの神髄を理解した欧州選手を、自分なりのスタイルで破ることができる選手は、今や彼以外に思い浮かばない。
「クレーコートで、また、こんな厳しい大会に勝てたことは、今後の戦いに向けて大きな自信となる」
錦織は満足そうに大会を振り返った。
彼のクレーコートシーズンは、マドリード、ローマを経て、四大大会の全仏オープンと続く。錦織が磨いてきた独自のクレーコートテニスが、どこかでもう一つ、大きな花を咲かせるかもしれない。