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錦織が全豪で見せた世界5位の戦い。
あえて“守備的”にもいける新境地。
text by
秋山英宏Hidehiro Akiyama
photograph byGetty Images
posted2015/01/21 11:20
アルマグロに2時間7分でストレート勝ちを収めた錦織圭。次戦の相手は世界ランク86位、クロアチアのドディグ。
アルマグロのパワーとスピードに強いられた厳しい戦い。
予想通り、錦織には序盤から難しい戦いとなった。アルマグロは、いつにも増して力を込めてボールをたたいた。フルパワーの強打に加え、好調時の錦織が見せるような速射砲の連打もあった。もともとハードヒットが持ち味。その強打者が、ベースラインからあまり下がらず、ライジングショットをまぜて「力+スピード」で攻めてきたのだ。
リスクを負った攻撃だったが、実力者がチャレンジャーの立場で思い切りよく放つショットは、高い確率できわどいコースに決まり、有効打となった。錦織は初戦の硬さもあり、守勢に回ることが多くなった。
第1セットは立ち上がりのサービスゲームを落とし、追いかける展開となった。じりじりするような、嫌な流れだ。しかし、第4ゲームのブレークバックで追いつくと、5-4からの相手のサービスゲームを破り、6-4で第1セットを先取。これで錦織が流れを引き寄せた。
第2セットのタイブレークで解かれた呪縛。
第2セットももつれたが、タイブレークでは、呪縛を解かれたような強打で相手を圧倒。錦織の2セット連取で気落ちしたのか、第3セットに入ったとたんにアルマグロのショットの精度が落ち、試合の行方はあらかた決した。
相手の前がかりの攻撃にも戸惑いはなかったと錦織はいう。戦前から相手を「力強いプレーヤー」と認め、攻撃的なプレーを予想していたからだ。錦織はその圧力を正面から受け止め、そして押し返した。
試合後の錦織のコメントが興味深い。
「ディフェンスがよかった分、最初は自分から攻めていくことができなかったが、第3セットは余裕も出てきたので、攻めていくことができた」
最初の2セットは、あえてディフェンシブにいった、と理解できる。今の錦織には一方的な攻撃を許さないだけの、ショットの質の高さがある。攻めてくる相手に力勝負を挑まず、確率論で、守備的な戦い方を選んだのだ。
堂々とした、強者の戦い方だった。相手がリスクを負って攻めてくるなら、自分はリスクを避けて戦えばいい、そうやって相手をよりリスキーなプレーに追い込んでいけばいい――そんな大局観があったに違いない。