野球クロスロードBACK NUMBER
「80歳まで投げられたら夢があるよね」
山本昌が忘れない“しつこい”子供心。
text by
田口元義Genki Taguchi
photograph byNIKKAN SPORTS
posted2014/09/13 10:40
5日の阪神戦では老獪なピッチングで5回無失点に抑えて今季初勝利を挙げた山本昌。実はセリーグ最年長安打と打点記録も保持していて、今後打者としての最年長記録を更新するチャンスも巡ってくるだろう。
「俺は面倒なことを続けて、ちゃんとやってきた」
通算219勝の「名球会投手」。実績は申し分ない。
だが、プロ入り後、4年目まで未勝利。アメリカ留学でスクリューを覚えてブレークし、3度の最多勝や沢村賞に輝くなど球界を代表する投手となった後も、怪我に苦しんだ時期があった。40歳を過ぎてからも2度の2ケタ勝利や最年長ノーヒッターになったとはいえ、体力の衰えや故障に苦しむ期間のほうが長かった。
山本昌が31年の現役生活で歩んできた道は、舗装された道ではなく、山林の中を模索しながらも、自分で足場を作りながら一歩ずつ登っていった、と表現したほうが正しい。
だからしつこさが身に付いたのかもしれないが、山本昌のそれは、単純に努力とイコールではない。
プロであれば努力をするのは当たり前だ。山本昌の場合、その作業をしつこいくらい追求しパフォーマンスに還元してきた。そしてそのための尽力は怠らなかったからだ。
山本昌は言う。
「逆境を乗り越えたこともあれば、『精神的に弱いな』と感じたこともあるし。その繰り返しかな。ここまでやってこられたのは、総じて運がよかったってことになるんだろうけど、それプラス『俺はちゃんとやってきた』っていう支えがあるのも大きいよね。結果が出なくてしんどい時でも、『俺は練習をさぼったことなんてない。やってきたことは間違ってない』と自信を持って言えるぐらい、面倒なことを続けてきたから」
初動負荷トレーニングで得た肉体とメンタルの充実。
この言葉を体現した大きな事例を挙げるとすれば、左ひざを故障した1995年から行なうようになった初動負荷トレーニングは、山本昌を語る上で有名である。
翌年のオフから、同理論(身体動作を追求し、反射機能を促進させる理論)を創案した小山裕史氏が運営する、鳥取市のトレーニング研究施設「ワールドウィング」で合宿をするようになり、小山氏とともに「去年よりもいいフォーム」を徹底して追求。現在でも、納得がいくまでフォームの修正に努めている。
「先生のところに行くようになって、ピンチをチャンスに変えられたというか『転んでもただでは起きないぞ』と思えるようになった」
ワールドウィングに通うようになってからの山本昌は、以前にも増してボールを投げるようになった。少しでも感覚が狂うことを嫌がり、オフでも毎日のようにキャッチボールを行なうほどである。