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岡田武史、東北での支援活動を語る。
「サッカーで元気に」を超える力を!
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph by(C)EXILE CUP実行委員会
posted2014/08/22 10:50
ボールを蹴っている間は……被災地も他の土地も関係ない。夢中でサッカーを楽しむ子どもたちから笑顔が溢れる。
家族の死について明るく話す女子中学生を見て……。
僕は政治家ではないから、1年後、2年後へ向けた復興の具体的な道程までは作れない。でも、こうやって一緒にサッカーをすることで、明日へと向かう小さな一歩を踏み出してもらうことの手伝いはできるんじゃないか――そう思ってその後も宮城県や岩手県などでサッカークリニックを開き、被災地の子どもたちと触れ合ってきた。
そんな活動を通して、ハッとさせられた経験も少なくない。
昼にサッカースクールを終え、お店を津波で流された店主が屋台で再開したというラーメン店に足を運んだ時のことだ。僕のスクールに参加してくれた中学生くらいの女の子たちも偶然屋台に来ていて、楽しそうに会話をしていた。
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「わあ、岡ちゃんだ! テレビで見たままですね!」などと騒ぎながら一緒にラーメンを食べていると、ふとそのうちの1人が「うちのじいちゃん、バカなんですよ~」と笑って言う。すると周りも笑顔で「ほんと、あんたのじいちゃん、バカだよ。津波が来たのにカメラを持って撮りに行って、流されちゃって。バカだねえ」と。
震災から少し時間が経ち、彼女たちはまるで作り話のように日常の中で明るくしゃべっているだけなのだが、僕にとってはそれも痛々しく、何も言えなくなってしまった。
サッカーボールを共に追いながら、彼女たちがさらに確かな笑顔を取り戻し、またサッカーをやりたいと思ってくれたら嬉しい、というのが僕にとってクリニックを開く単純で明快な動機になっていった。
“サッカーでみんなを元気にする”という言葉に、悩む。
ただ、被災地を訪れる回数が増えていくにつれ、自分自身の中に疑問も芽生えてきていた。
多くの人が被災地を訪れ、“サッカーでみんなを元気にする”などというフレーズが日本全国に溢れるなか、自分は本当に何ができているのかとも思い始めたし、自分が被災地の方々に必要な存在なのかどうかも分からなくなっていた。
振り返ってみると、知らず知らずのうちに「被災地慣れ」していたのかもしれない。