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<日本代表が学ぶべきスタイル> 城福浩 「チリが見せた“アクション”のサッカーを」
posted2014/08/19 11:00
text by
Number編集部Sports Graphic Number
photograph by
Getty Images
W杯で躍進した国々から学ぶべき戦略を日本人指揮官が語った――。
Number857号に掲載された『World Cup 敗北の研究』より、
ヴァンフォーレ甲府を指揮する城福浩監督が見た
チリ代表の積極性と、日本の今後について展望した記事を全文公開します。
チリの魅力は、特別な個を持たずともチームで守ってチームで攻めていく連動性と躍動感にある。2010年の南ア大会でベスト16に入って話題となったが、監督が代わった今大会もその根幹は変わっていない。
連動性を可能にしているのは、まず個人の技術の高さ。たとえば強いボールが来ても、足元でぴたりと止めることができる。加えて、ゲームの局面での判断の的確さが素晴らしい。足元でもらうべき時と、裏に出るべき時、無理をしてもドリブルをすべき時、サポートを待つために3秒間、ひとりでボールをキープすべき時……そうした状況を、個々の選手が正確に見極めていた。
躍動感の源となっているのは、選手たちの豊富な運動量だ。だが実は、チリの選手は突出して多く走っているわけではない。彼らは「動かされている」のではなく「動いている」――つまり、リアクションではなくアクションのサッカーをしているので、多く走っているように見える。無理をしてドリブルを仕掛け、ボールを奪われて慌てて自陣に戻る選手を見て、「よく走っている」と思う人はいないだろう。だがボールが収まった瞬間に受け手の選手が同時に走り出し、そこにパスが出れば、走っているという印象になる。後者がまさにチリのサッカーだ。
チームにはアレクシス・サンチェスという突出したエースがいるが、たとえ彼がケガで欠場しても、おそらくチリが見せるスタイルは変わらないと誰もが思うのではないか。そこにチリのすごさがある。対照的に圧倒的な個を生かして世界のトップオブトップのサッカーを見せるブラジルに、チリが自分たちの特徴をいかんなく発揮して対等に挑んだ決勝トーナメント1回戦は、見ていて共感した。1-1でPK戦にもつれこんだ末の惜しい敗戦となったが、とても印象に残っている。
“コンマ1”をいかに縮めるかが日本サッカーの課題。
日本サッカーはこの15年で大きな躍進を遂げた。言ってみれば、100mを13秒で走っていた選手が、10秒フラットまで上げてきたようなものだ。ここから9秒9までの、“コンマ1”をいかに縮めるか。これが今日本サッカーが直面している課題だと思う。
そこそこ強くなってW杯に出場できる32カ国には入れるが、当たり前のように決勝トーナメントに残ることはまだ難しい。ブラジルのテクニックやドイツの破壊力を見ると、日本がコンマ1を縮めるのにあと何十年必要なのかと不安になってしまう。しかし5年後にチリのようなチームになることは不可能ではないのでは……。チリは、日本にコンマ1の壁に手が届く可能性を感じさせてくれる存在だ。