スポーツ・インテリジェンス原論BACK NUMBER
カーショーと上原、田澤の共通点。
MLBが重視する「初球にストライク」。
text by
生島淳Jun Ikushima
photograph byGetty Images
posted2014/08/11 10:30
ドジャースのクレイトン・カーショーは、2011年に投手三冠、そしてサイ・ヤング賞を2度受賞したMLB最高の左腕だ。2009年以降、毎年30先発を続ける安定感も備える。
メジャーナンバーワン左腕、カーショーの武器は?
いま、メジャーの左腕でナンバーワン投手と言えば、ドジャースのクレイトン・カーショーである。
エンジェルス戦では8月5日に登板し、序盤は制球が乱れていたものの、中盤から投球を立て直す能力に非凡なものを感じさせた。カーショーは調子が悪いなりにゲームを作れるのだ。
取材では、彼とバッテリーを組むA・J・エリス(彼はインテリジェンスあふれる選手)のカーショー分析が興味深かった。「フォーシーム、スライダー、カーブがすべて超一流」と持ち球がいいのは当然として、
「まず、1球目にストライクが取れる。これが大事。これは簡単なようで簡単なことじゃない。相手打者の情報を分析した上で、きちんとした技術が要求されるからだ。そしてカウントを先行させることによって、打者に対して攻撃的(アグレッシブ)になれる。追い込んでしまえば、クレイトンには三振を取れる球があるから、相手打者を守勢に立たせることが可能になる」
とカーショーの能力の高さを解説してくれた。
「初球はくさいところ」は正しいのか?
いま、アメリカではマイナーリーグの段階から、ストライクを先行させて球数を減らすことが投手に強く求められている。
もちろん、初球から積極的に打ってくる打線に対しては繊細な配球が必要とされるが、基本的には打者に対して大胆に攻め込んでいく感覚が重要だ。
これはなにも先発投手に限った話ではなく、リリーフ投手も同じことだ。
レッドソックスの上原、田澤両リリーフ投手が重宝されているのは、どんどんストライクを投げ込んでいくスタイルが持ち味だからだ。
そして結果的に、最小限の球数で仕事を切り上げられれば翌日にもスタンバイできる。これはブルペンを差配する監督にとっては選択肢が広がることにつながるから、とてもありがたい。
日本では、あらゆるレベルの野球で、初球に打たれた投手を叱責する傾向がまだ残っている。それが「初球はくさいところから」という発想につながり、打者優位のカウントになってしまうことが少なくない。
アメリカで投手、捕手の口から配球に関してアグレッシブな意見を直接聞くと、野球を見る目が変わってくる。
甲子園、そして9月からは神宮での有原の投球にも注目したいと思う。