ブラジルW杯通信BACK NUMBER
W杯の理想的な「負け方」と「勝ち方」。
コスタリカとアルゼンチンの対照性。
posted2014/07/07 11:30
text by
戸塚啓Kei Totsuka
photograph by
Getty Images
32カ国が出場するワールドカップは、たった1カ国の勝者と31の敗者を生み出す大会である。
ブラジル・ワールドカップのスタジアムでは、過去の大会を振り返る映像が流される。ヨハン・クライフを擁して世界に衝撃をもたらした1974年大会のオランダも、満身創痍のディエゴ・マラドーナが牽引した'90年大会のアルゼンチンも、ロベルト・バッジョがポニーテールをなびかせた'94年大会のイタリアも、優勝国のすぐそばで悲嘆に暮れている。決勝戦で散った彼らは、“最後の敗者”だからだ。
参加国によって現実的な目標があり、グループステージ突破やベスト8進出で達成感を得られる国もあるが、どの国も勝ち進むほどに勝利への飢餓感は膨らむ。16強入りや8強進出といった目標を果たした満足感は、「こうすれば良かった」とか「ああすれば結果は違ったのでは」といった「if」を誘うものでもある。満たされた思いでブラジルを去る敗者は、これまでも、これからも現れないだろう。
例外があるとすれば、コスタリカだ。
W杯における“正しい負け方”とは?
W杯には“正しい負け方”があると考える。周囲を納得させる意味ではなく、チームの未来への足掛かりとなるような負け方だ。
イタリア、イングランド、ウルグアイとのグループステージは、コスタリカにとってのハイライトではなかった。ワールドカップ優勝経験を持つ3カ国とのサバイバルをくぐり抜けても、彼らのフィジカルとメンタルは枯渇していなかったのである。
ギリシャとのラウンド16では、肉体と精神をさらに追い込んだ。「後半終了間際に1対1の同点になったときは、もう試合は終わったと思ったよ。僕自身はふくらはぎ、太もも……身体中のあちこちが痙攣していたし」と、主将のFWブライアン・ルイスは振り返る。
60分過ぎに退場者を出したコスタリカは、残り30分強を10人で戦っていた。スリリングな逃走劇は、残忍な死刑執行へと変わりつつあった。